50年間公開されなかった歴史的な音楽フェス“ハーレム・カルチャラル・フェスティバル”の記録『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
1969年の夏にアメリカで開催された歴史的な音楽イベント“ウッドストック・フェスティバル”。ロックを中心とした伝説的な野外コンサートであるとともに、1960年代アメリカのカウンターカルチャーを象徴するイベントとして知られるが、実は同じ年の夏に、もうひとつ歴史的な音楽フェスである“ハーレム・カルチャラル・フェスティバル”が開催された。だが当時の記録をおさめた貴重な映像が日の目を見ることはなく、見事なドキュメンタリー作品となって我々に届くまでに、実に50年以上の歳月を要した。それが現在公開中の映画『サマー・オブ・ソウル』である。
監督はアミール・“クエストラブ”・トンプソン。自身5度もグラミー賞を受賞している著名なミュージシャン(ヒップホップバンドTheRootsのドラマー兼共同フロントマン)であり名プロデューサーでもある彼だけに、音と映像へのこだわりは徹底していて期待を裏切らない。冗長な場面のない全編グルーヴィーでエネルギッシュなこの作品は、2021年1月に開催されたサンダンス国際映画祭ではオープニング作品として上映され、ドキュメンタリー部門審査員大賞と観客賞を受賞している。
そんな“ブラックミュージックの革命的なフェス”だけに、出演メンバーも錚々たる顔ぶれだ。才能のほとばしる若き日のスティーヴィー・ワンダーをはじめ、B.B.キング、フィフス・ディメンション、ステイプル・シンガーズ、グラディス・ナイト&ザ・ピップス、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、モンゴ・サンタマリアらが、それぞれ最高のパフォーマンスを披露している。なかでもゴスペルの女王マヘリア・ジャクソンの魂を揺さぶられる歌声やニーナ・シモンの扇動的で迫力あるステージは圧巻だ。
この1年前、アメリカではアフリカ系アメリカ人の公民権運動の指導者で1964年にノーベル平和賞を受賞したキング牧師が殺害されており、多くのアフリカ系アメリカ人は依然、怒りと悲しみの中にあった。そのタイミングで開かれただけに、会場は時代背景を強烈に感じさせる特別なエネルギーに満ちている。
映画にも登場する、まさにブルー・アイド・ソウルな人である当時のニューヨーク市長の尽力もあって実現したこの記念碑的なフェスは、怒りや悲しみ、閉塞感や不平等感だけでなく、自分を信じる心や未来への希望などさまざまな感情を抱えた当時の観客のエネルギーと、彼らと気持ちを同じくするミュージシャンが放つ最高の音楽が出会った特別な時間だ。世界的にダイバーシティに対する考え方がようやく大きく動き始めた今公開されるというタイミングの良さも、名作につきものの奇跡のように思える。
(作品情報)
大ヒット公開中!
『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
原題:SUMMER OF SOUL (OR, WHEN THE REVOLUTION COULD NOT BETELEVISED)
監督:アミール・“クエストラブ”・トンプソン
出演:スティーヴィー・ワンダー、B.B.キング、フィフス・ディメンション、ステイプル・シンガーズ、マヘリア・ジャクソン、ハービー・マン、デイヴィッド・ラフィン、グラディス・ナイト&ザ・ピップス、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、モンゴ・サンタマリア、ソニー・シャーロック、アビー・リンカーン、マックス・ローチ、ヒュー・マセケラ、ニーナ・シモンほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2021 20th Century Studios. All rights reserved.
北米公開:2021年7月2日(劇場/Hulu同時公開)
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