サステナブル・ファッションの潮流【前編】キャサリン・ハムネット、パタゴニア、ザ・ノース・フェイス、ユニクロetc.
これから私たちが選ぶ服には、サステナビリティの観点が外せません。それに応えるように、いまファッション界では新たな技術革新とクリエイティビティが加速中。『WWDJAPAN』編集統括兼サステナビリティ・ディレクターの向千鶴さんがサステナブルファッションの潮流を解説します。
業界のサステナブル思考は
2018年頃から急激に盛り上がった
サステナブルな思考を
持った先駆者たち
ファッション界にサステナビリティという考えが浸透したのは、本当にここ数年のことです。けれども、そういったスタンスでファッションに関わっている人たちは以前からいました。たとえば、1979年にスタートしたイギリスの「キャサリン・ハムネット・ロンドン」。デザイナー本人の名を冠したブランドは、土を荒らしながら大量生産するコットンの生産背景に早い段階から注目していました。環境以外にも貧困や戦争などの社会問題に切り込み、強いスローガンをプリントしたTシャツを発表し、注目を集めました。現在のサステナブルファッションを牽引する次世代ブランドは、この時代の影響を受けて育っていると考えられます。
その次のムーブメントとして台頭したのが90年代のアメリカの企業です。「パタゴニア」や「ナイキ」といったアウトドア、スポーツをベースとしたブランド。パタゴニアは環境問題についてかなり前から活動していました。80年代、使用していた化学薬品が従業員に害を与えていることが判明したのを機に、衣類それぞれを製造する全工程の追跡をはじめたといいます。さらに1996年までにはスポーツウェアの全製品ラインの綿を100%オーガニックコットンに切り替えました。ナイキは1997年に児童労働問題が発覚しました。東南アジアの工場で、児童労働や劣悪な環境下での長時間労働が問題視され、世界的な不買運動に。そこから目覚めて企業としてのあり方が大きく変わりました。現在、アウトドア系、スポーツ系は意識の高い企業もかなり多いですが、この2ブランドが先駆者といえます。
政治、災害、若者の声が
業界を変える力に
ファッション界で、潮目が変わったとされるのが2018年頃。急速に盛り上がった背景には、2015年に採択されたパリ協定、つまり、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合う「国連気候変動枠組条約締約国会議 (COP)」での合意が大きく関係しています。そもそも繊維産業は、石油産業に次いで2番目に環境を汚染する産業といわれてきました。実は温室効果ガスの排出量は、飛行機や船の総排出量よりも多いのです。服をつくる際に大量の水をつかうことによる環境負荷の高さ、大量生産・大量消費、廃棄衣料の膨大さなど、問題は山積みです。巨大企業でもあるヨーロッパのラグジュアリーブランドの社会的な責任は大きく、各国と一緒になって取り組んで行こうと、2016年頃から方針を立て始めたのです。
時を同じくして、世界では気候変動の影響で、降水量が平年の2倍以上に達したり、大洪水が起きたり、温暖化による気温上昇で干ばつが起きて山火事の被害が深刻化したりと、人間が身をもって危機を感じはじめました。そして立ち上がったのが若者たちです。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんをはじめ、各国で若い人たちが声を上げはじめました。2018年、イギリスのBBCが「欧米のラグジュアリーブランドが売れ残り商品を焼却した」と報じましたが、後にそれは氷山の一角であったことがわかり、2020年にはフランスで廃棄禁止及びサーキュラーエコノミーに関する法律が可決されました(2022年1月施行)。政治、災害、若者の声。この3つが揃い、欧米でファッション業界の変化が加速することになったのです。
日本では少し遅れて2020年、当時の菅義偉首相が「カーボンニュートラル宣言」をしました。上場企業の少ない日本のファッション界では、サーキュラーエコノミーは立ち行かないという声も聞かれましたが、最近はサステナブルに舵を切ったことで業績が上がったという企業も。ファーストリテイリングの「ユニクロ」やゴールドウインの「ザ・ノース・フェイス」はいち早く、理念を持って動き始めた印象です。
▼中編につづく
PROFILE
向千鶴 むこう・ちづる
『WWDJAPAN』編集統括兼サステナビリティ・ディレクター。2000年にINFASパブリケーションズ入社。記者として主にデザイナーズブランドの取材を担当。『ファッションニュース』編集長、『WWDジャパン』編集長などを経て21年4月から現職。
●情報は、FRaU2022年8月号発売時点のものです。
Text & Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子