幅允孝が選ぶ3冊「海辺でいい女に出会う本」
およそ700万年の人類の歴史のなかで、この数十年の間に、私たちは海のシステムや海洋生物、美しい自然の数々を破壊してしまいました。海の被害は私たちが考えている以上に深刻なもの。でもまだできることがあるはず。海を変えるために、自分が変わることからはじめてみませんか?
本を読むこともそのひとつ。本の世界も果てしなく広がる海のように、自然や生物、文化、歴史、哲学、冒険、あらゆる事象につながっていきます。深い深い「本の海」を潜ってみましょう。今回は、海を愛するブックディレクターの幅允孝さんが選んだ3冊を、幅さんの好きな海&海の思い出とともにご紹介します。
『海辺の生と死』
島尾ミホ/著
作家・島尾敏雄の妻で作家の島尾ミホによるエッセイ。生まれ育った加計呂麻島の自然や暮らし、そして特攻隊長として島に赴任した敏雄との出会い。南方の離島という環境で育った者にしかたどり着けない心境があるとしたら、こういうものかと思う。じっとりと湿気を含んだ海辺の空気が漂っているのもいい。(中央公論新社)
『海からの贈物』
アン・モロウ・リンドバーグ/著 吉田健一/訳
海辺で深く考えるのは難しい。それは居心地がよすぎるから。大西洋横断単独無着陸飛行に成功したチャールズ・リンドバーグの妻である著書が海辺で思考したことを記した本書は、その考えをくつがえしてくれる。「たゆたう」からこそわかること、流動し続ける海岸が持つ原始的な衝動から生まれるアイデア。海で考えるのも、ときにはいいかもしれない。(新潮社)
『島暮らしの記録』
トーベ・ヤンソン/著 冨原眞弓/訳
ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソンが一時期を過ごした夏小屋での記録。海に囲まれた島に母と親友、猫と暮らすヤンソン。男手がないなかでも離島暮らしをサバイブする術や道具について詳細に書かれていて、ファンタジーではない、リアルな島暮らしのようすがわかって興味をそそる。ムーミンの世界からは想像できないヤンソンのたくましさがまた意外で、面白い。(筑摩書房)
幅さん「最愛の海」
マルタ島
幅さんの「海の思い出」
地中海の中央あたりあるマルタ共和国を旅したときのこと。コミノ島のブルー・ラグーンは今まで見たなかで最高に美しい海でした。泳ぐ準備をして行かなかったので、同行者もみんなパンツ一丁になって海へドボン。「世界には飛び込まざるを得ない海がある」ということを、身をもって知った、すてきな体験でした。
PROFILE
幅 允孝 はば・よしたか
ブックディレクター。1976年愛知県生まれ。BACH代表。人と本の距離を縮めるため、公共図書館や病院、動物園、学校、ホテルなどでライブラリーの制作を行う。最近の仕事に札幌市図書・情報館の立ち上げなど。
●情報は、FRaU SDGs MOOK OCEAN発売時点のものです(2019年10月)。
Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子