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ネット上の「ご近所さん」とゆる〜く集えるコミュニティサロン
ネット上の「ご近所さん」とゆる〜く集えるコミュニティサロン
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ネット上の「ご近所さん」とゆる〜く集えるコミュニティサロン

コロナ禍をきっかけに一気に拡大したオンラインサロンの需要。そんななか、ユニークな視点でウェルビーイングを提供するオンラインコミュニティサロンが、ちまたで話題になっている。

その名は「Nesto(ネスト)」。そこには「読書」「ランニング」「整理整頓」など、「リズム」と呼ばれるさまざまなコミュニティがある。それぞれのリズムは毎週定時に開催されており、会員は自分が参加したいリズムの時間になるとZoom上のコミュニティルームに入室、各自それを行う。とくに何かを教わるワークショップのようなものでもなく、参加者同士が情報交換をして切磋琢磨するという場でもない。

こう聞くと、「そんなサービスにニーズがあるのか?」と思われるかもしれない。が、立ち上げから2年半、徐々に会員数を増やしているという。無料ではなく、有料のサブスクリプション事業にもかかわらずだ。

成長を目指すスタートアップ企業でもなければ、社会問題に取り組む貢献型企業でもない。まったく新しい発想のもと、私たちがウェルビーイングを追求するサポートをしてくれる、それがNestoだ。このたび、この不思議なサービスを思いついた代表の藤代健介さんに話を伺った。

藤代健介/発起人・代表取締役社長

1988年千葉県生まれ。東京理科大学建築学科卒。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科在学中にデザインコンサルティング会社prsm創設。2014年、半年限定のコミュニティPROTOを創設。2015年に世界経済フォーラムのGlobal Shapers Communityに選出され、2016年度Tokyo Hubのキュレーターを務める。2018年にはForbes 30 Under 30 AsiaのThe Arts部門に選出。2020年3月に株式会社NESTOを創設した。

毎週同じ時間に集まる。だから「リズム」

まず最初に、Nestoが提供しているリズムについて藤代さんに詳しく教えてもらった。

「リズムは決まった曜日の決まった時間に開かれるオンライン上の小さいコミュニティで、現在は40のリズムがあります。『読書』『瞑想』『ヨガ』『絵画』といったものから、『手紙を書く』『ぬか床の手入れ』『プランター栽培』『お灸』などユニークなものもたくさん。会員になればすべてのリズムに参加できます。

たとえば『読書』は毎週火曜の21:30~22:10に開催しているので、読書をしたい人は開始時間になったらZoom上のコミュニティルームに入り、好きな本を読みます。そして30分経ったら、10分ほどホストや他の参加者と話をする。この流れはどのリズムも同じですが、話に参加する人もいれば、しない人もいます。アクティビティ中も、カメラやマイクをオフにしている人もいる。とにかくものすごくゆるーいコミュニティなんです(笑)」(藤代さん、以下同)

何かを習慣にしたくても、ひとりだとなかなかできないもの。Nestoは時間を決めてみんなで行うことで習慣化させよう、ということを目的としている。

「だから習いごとと違って、先生がいて参加者に教える、というものではありません。それぞれのリズムにはホストが2人いますが、『それでは一緒にやりましょう』と引っ張るためにいるというか、どちらかというとホストも参加者みたいな感じで、みんなと一緒にそのリズムをするんです。

ちなみに僕は『図工』というリズムのホストを務めているのですが、正直言うと手先が不器用で、たいして教えられることなんてないんです。でも僕が図工の習慣を持ちたいからこのリズムを開いている。そして毎週、同じ時間にみんなと一緒に何らかの物づくりをし、軽くお話をしているわけです。いわば、オンライン上のご近所さんという感じですね。この独特の距離感が好きな人が、会員になってくれています」

毎週木曜日に行われているリズム「野草一会」。家のまわりを散策して草花を摘み取り、草花をいける

非日常的な刺激は、サステナブルにつながらない

Nestoの利点は、ひとりではできなかったことを習慣化できる、というところにある。しかし習慣化のサポートを行うのは、商品やサービスを提供するのが一般的なサブスクリプション事業においてはかなり異色のものだ。いったい、どのような経緯でこのアイデアが生まれたのだろう。

「僕は昔から修行と呼ばれるものが好きで、バンジージャンプをしてみたり、10日間の瞑想プログラムに参加してみたり、いろいろやってきたんです。でもそういった非日常的な刺激ばかりを追い求めていると、つづかないんですよね。修行って結婚や離婚と似ていて、大きな変容を伴うできごとなので、ガツンとした自分の進化のキッカケにはなるんです。でもそれがつづくと、だんだん修行して進化することが目的になっていって、進化していないともの足りなくなっていく。ご褒美ホルモンともいわれるドーパミンの分泌を、もっともっとと求めるようになるのと一緒ですね。次第に、これって自分にとってサステナブルじゃないな、と思うようになったんです」

非日常的な刺激ばかりを追い求めていると、刺激のない日常に耐えられなくなっていく──。次第に藤代さんは、そんな葛藤を抱くようになったという。

「おそらく、人生って非日常は5%ぐらいで、95%は日常だと思うんです。そう考えると、興奮度が低い日常というものをどれだけ楽しめるか、ということのほうが重要だなと思うようになって。それでもっと日常的な部分にフォーカスしたいなと考え、そのカギを握るのは習慣だ、という結論にたどりついたわけです。だからある意味、Nestoは僕自身のためにつくったようなコミュニティでもあるんですよ」

毎週金曜日の夕方に行われているリズム「培う、魔女力」。自然農法に基づき、無肥料でプランター栽培を行う

自分を「ちょうどいい状態」にする術を

この一風変わった事業は、藤代さんの考えるウェルビーイングがベースとなっている。

「僕は常々ウェルビーイングの体現を追求していて、プライベートでは鎌倉の古民家に住み、ハーブを育てたり、朝は海岸沿いを走ったりと、その土地ならではの暮らしを送っています。そんなウェルビーイングを追求する人たちのサポートをしよう、と立ち上げたのがNestoだったわけです。

僕の考えるウェルビーイングがどういうものかというと、中庸、つまり、ちょうどいい状態。すべてが自分の思いどおりに生きているわけでもない、かといって自己犠牲を払ってガマンして生きているわけでもない。どちらかに極端に振れていない状態が、いちばん自分のウェルビーイングにつながると思うんです。そのためには、いつも自分をちょうどいい状態にチューニングできる術を持っていることが大事。そのひとつが、ただ自分がやりたいことをやる、という習慣じゃないかと考えたんです」

この中庸のバランスは、ただでさえ保つことが難しいものだが、コロナ禍によってさらに2つの「極端化」が出てきた、と語る。

「それは怠惰と孤独です。コロナ禍によりテレワークが増え、多くの人は自分のペースで仕事ができるという自由を手に入れたけど、逆にだらけてしまい、自分を整えることが困難になってしまった。またずっと家にいることで社会や人とのつながりが減り、孤独を感じるようになったという人も多い。怠惰と孤独は今後も課題でありつづけると思うので、自分を真ん中にチューニングしてくれる習慣へのニーズはさらに高まってくるんじゃないかと思っています」

独力でチューニングできるならそれもいい。しかし藤代さんがあえてコミュニティという形で行うのには理由がある。

「僕は渋谷でさまざまな人が住むシェアハウス『拡張家族Cift』を立ち上げたのですが、もともと人を集めることが好きなんですね。それは僕が寂しがり屋だというのもありますけど、もうひとつ、成功体験として効果を感じているから。というのも、僕はいまはこんな見た目ですけど、実は高校時代まではモテたくてサーファー系の格好をしてたんですよ。それが大学で建築科に進むと、まわりはモード系の人ばかりで。そうしたら僕も、卒業する頃には気づけば全身真っ黒なモードなスタイルになっていたんです(笑)。

そこから、人って何かによって衝撃的に変わることももちろんあるけど、多くは共有する環境によってゆっくり変わっていくんだなと痛感して。実際、人間ってそうやって生き残ってきた種族でもあると思うんですよ。

つまりそれって、環境に合わせて自分を進化させたということ。となると、より進化するには環境が大事だなと思ったんです。いかにみんなでよい方向に自分を持っていくか。僕がコミュニティで何かをやることを好むのは、そういう理由もあるんです」

これからも「ほどよい距離感」を大切にしていきたい

リフレッシュとも、休息とも違う。まさに、まったく新しいウェルビーイングの追求の仕方をNestoは提唱しようとしている。すでに多くの会員が集まっており注目度も増しているが、今後新たな展開は考えているのだろうか?

「Nestoでも中庸のメリハリをつくっていきたくて、最近は夏至とか季節の変わり目にオンラインでフェスをやったり、オフ会などオフラインイベントもはじめたりしています。Nestoは『遠くのご近所』さんをつくることを目標としているので、そういった人たちとたまに会えるとより仲が深まると思うんですよね。

もうひとつ、Nesto全体をひとつのように捉えて、これまで行ったきたあらゆる実験による経験や、豊かな会員のネットワークを活用し、いろんな企業の課題に応えていけないかとも考えていて。たとえばある企業が『こういう問題を抱えていて改善したい』という場合、その問題解決能力のある会員に声をかけて、力を貸してもらう。やはりコミュニティというのは、内にこもらず外の世界へ価値を生み出していくのがより健全なあり方だと思うので、ゆくゆくはそういったこともできたらなと考えています」

Nestoはいわば、かつて私たちが過ごした学校に近いのかもしれない。肩を並べて学び合い、さらに実践し合う。ただ、そこには先生と生徒のような上下関係がないだけだ。

「昨今、サードプレイスをもつことの大切さが語られていますが、オンラインのサードプレイスというと、これまでは大きく2つのタイプしかなかったと思うんですね。オンラインサロンのような、有益な情報を共有し合って起業などを目指すコミュニティ。そしてもうひとつは、SNSのような、いろいろな投げかけに答える集合知のようなコミュニティです。Nestoはこのどちらでもなく、オンラインでありながら従来の地縁を感じさせるような、心地よさとほどよい距離感が最大のバリューなんです」

取材・文:山本奈緒子 編集:大森奈奈 写真提供:Nesto

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