Do well by doing good. いいことをして世界と社会をよくしていこう

「海を楽しむ」ついででOK! あなたの次の一歩が見つかるビーチクリーン【後編】
「海を楽しむ」ついででOK! あなたの次の一歩が見つかるビーチクリーン【後編】
TOPIC

「海を楽しむ」ついででOK! あなたの次の一歩が見つかるビーチクリーン【後編】

7月の海の日には2000人近くもの人が応募・参加し、ごみ拾いを行った片瀬東海岸(編集部も参加しました。そのレポート(前編)はこちらから!)。その主催者で2005年の創設から17年、「日本一楽しいビーチクリーン」をキーワードに活動を続ける海さくらの古澤純一郎理事に、ビーチクリーンの魅力と意義、そして未来にかける夢を伺いました。

ごみ拾いに参加してみることは、あらゆるSDGs活動のはじめの一歩!?

「ごみ拾いって、誰でもできるじゃないですか。実は、そうしてごみを拾っているうちに、それぞれの人にとって新しい次の一歩が見つかるんです」

“ビーチクリーン活動やごみ拾いに興味はあるけれど、まだ『はじめの一歩』を踏み出していない方へのメッセージを”とお願いしたら、NPO法人 海さくらの古澤純一郎理事長は笑顔でそう答えてくれた。

古澤理事長。「はじめて参加される方のなかには『代表がタレ目なので安心できました』と言ってくれる人もいます」と笑う

「ごみ拾いをしていると、『なんでこんなごみが?』『どこから来るんだろう?』という疑問や発見がたくさんあるんです。そうするうちに、それぞれ自分にとって興味深いテーマに気づくんですね。ごみについて考える人、プラスチックやペットボトルについて考察をはじめる人、廃棄物の流れにフィーチャーする人、繊維やファッションのありかたについて考える人、都市からゴミが流れてくる構造について調べはじめる人など、ひとり一人がいろいろな課題を感じてそれぞれ次の一歩を踏み出す。海は次の一歩につながるオールマイティな場所なんです」

2005年から神奈川県藤沢市の片瀬東浜海岸で毎月ビーチクリーン活動を続けるNPO法人海さくら。今年7月18日の海の日に行われたイベントには2000人近くの参加者が集まるなど(詳しくは前編をご覧ください)、いま静かなブームとなっている、ごみ拾いのフロンティアでもある。

「ビーチクリーン活動って、ハードルが高いというか、はじめて参加するときにはちょっとドキドキしてしまうという話を、参加者から聞くことがあります。たしかに『どんな団体なんだろう?』『厳しくないの?』『寄付とかするのかな?』『怪しくない?』なんて、いろんなドキドキを持って集まる方もいらっしゃるようです。でも、考えてみてください、“ただのごみ拾い”ですから。海さくらのイベントは本当に自由で、途中買い食いしてもビールを飲んでもいいし、海で遊んだり、おいしいものを食べに来たりするついでと思って参加してくださったら、むしろそっちのほうがうれしいんです」

明治時代から続く船具会社の4代目として幼いころから川や海に触れてきた古澤さん。30歳で子どもが生まれたことを契機に、“仕事だけではなく本当にやりたいことをやっていこう”とはじめたのが、「大好きな江の島の海をきれいにする活動」だった。

「大学の体育会でテニスをやっていたこともあって球拾いは得意でしたから、ごみ拾うのも得意だろうと(笑)」

軽い気持ちではじめたごみ拾いだが、最初のうちは思い通りにいかない日が続く。せっかくごみを拾ってきれいにした砂浜も、数週間もするとごみはどこからかやってきて海岸に打ち上げられる。ひとりではムリだと思って大学時代の同期や後輩を誘ってはみたものの、古澤さんの強い思いがむしろ人間関係を悪くすることもあり、離れていく人も。

「偽善者だと言われたこともありますし、友人とモメてしまうこともありました。よくない意味で正論に取りつかれていたのかもしれません。平たく言うとムリしてかっこつけてたみたいな。でもあるとき、自分が参加者にだったら、と目線を変えてみたら、『参加者にとってうれしいことじゃないとな』って気づいて。『だったら日本一楽しいごみ拾いを参加者にプレゼントしてやろう』と考え方をあらためたんです」

以来、現在にいたるまで、海さくらの活動では「参加者全員にプレゼントをわたすような気持ちで開催する」イベントであることを大切にしているという。

参加者にはトングとザルが無料で貸し出される。ビーチクリーンの標的は大きなごみだけではない。マイクロプラスチックを専門に拾う人も

「ビーチクリーンの楽しさって、大きくふたつに分けられるかなと。ひとつはビーチクリーンそのものの面白さ。拾うごみから何かを発見したり、充実感だったり、人に褒められたり(笑)。宝探しのような気持ちでのめりこむ方もたくさんいらっしゃいます。そしてふたつ目が、海で楽しむいろいろなこと。イベントで出会って仲よくなった人と再会したり、海の色や空の色を楽しんだり、ごみ拾いのあとの食事やビールを楽しんだり。それらすべてが合わさっての、ビーチクリーンの魅力だと思っています。実際に海に来て、海のすばらしさを知ってもらうことが一番『海をきれいにしよう』という思いにつながるから。ごみ拾いはそのついででも、きっかけでもどちらでも」

7月のごみ拾いイベントには、地元藤沢市在住のタレントでふじさわ観光大使の、つるの剛士さんや、ミュージシャンで俳優の中山省吾さん、鈴木恒夫藤沢市長も駆けつけ、参加者を応援してくれた

ごみ拾いの活動を通じていくつもの「つながり=環」が生まれていく

その思いは少しずつ広がり、日本中の仲間と片瀬東浜海岸の仲間、ふたつの仲間の環が生まれたという。そのうちのひとつ、「日本中の環」が、「ゴミ拾いや環境活動を簡単に探せるサイト BLUE SHIP」だ。

「日本中に、私たちのようにごみ拾いやビーチクリーン活動を行う団体があります。でも、それを探すのは必ずしも容易ではなかった。ですから、ごみ拾いを『やっている団体』と『はじめたい人』を結びつけるサイトをつくりたくて。2015年にBLUE SHIPを立ち上げて、いろいろな人に声をかけ続けて、現在では4000団体くらいが参加してくださっています。だれでも、いつでも気軽にはじめられるように、ごみ拾い界の『食べログ』みたいになれたらいいですね」

そしてふたつ目の環、片瀬東浜海岸の仲間たちとの環が海岸の雰囲気を大きく変えてくれたと語る。

「ビーチクリーンの活動をしていると、釘や注射器のようなものを拾うことも少なくない。そしてそんなものが出てきたと言えば、遊びに来てくれる人は減ってしまうかもしれない。でも、環境活動の一環としては、その事実をちゃんとSNSなどで公表しなければならない。それが私たちの立場です。この状況を何とか変えられないか、正直悩みました。警察や神奈川県、藤沢市に何とかできないか相談しに行っても、なかなか有効な対策は立ててもらえなくて。相談をしに行ったはずがケンカして帰ってくることもありました」

だがあるとき、既視感を覚える。

「あれ?って。2005年にごみ拾いをはじめた頃と同じことやってるな、と気づいたんです。正論を押しつけるだけで、相手に歩み寄っていない、正義感を振りかざしているだけじゃないのか、怒っていてもはじまらないのでは、って。そこでまずは自分ができることから実践しなくてはと思い至って挑戦したのが、『釘のない海の家』でした」

木材を使った建造物の革新的な技術開発を行なっていた長谷萬グループに相談を持ち込み、慶應義塾大学の小林博人教授が考案した、合板だけで建造物を組み立てる技術を用いて「釘のない海の家」を完成させた。

「もちろん、釘のない海の家を1軒建てただけですぐに何かが変わったわけではありませんでした。ただ、それをきっかけに、組合のみなさんや海の家の経営者の方々と意見交換したり一緒に飲んだりする機会も増えてきて。そのうちにみんなでごみ拾いしたりお互いの悩みを相談しあったり、Tシャツを一緒につくったり、いまでは文字通りワンチームになることができました。そりゃそうですよね。みんな湘南の海が大好きで集まっているんですから。誰もがきれいな海のほうがいいに決まっている(笑)」

いまではそれぞれの海の家や近隣の住民が日常的にごみ拾いを行なってくれているという。 「夏の朝は花火のあとや、深夜集まった人の飲み食いのあとなど、いわゆる放置ごみがたくさんあることもありますが、数時間もするともうなくなっている。誰かが拾ってくれているんですね」

参加者それぞれが自分のスタイル、楽しみ方でごみを拾う。そんな自由度の高さも魅力のひとつ

海岸を汚染するごみの8割以上が、実は内陸部で廃棄されたもの

放置ごみはそんな町ぐるみの自主的な活動でその朝のうちに片づけることが可能だが、そうはいかないのが、流れつく「町のごみ=内陸部から流れてくるごみ」だ。

「統計的には海岸のごみの8割くらいが河川などを経由して流れ着いたいわゆる『町のごみ』だといわれていますが、実際にごみ拾いをしている感覚からすると9割以上が『町のごみ』なんです。海岸に放置されたばかりのごみはプラスチックやペットボトルもまだ原形をとどめていて、1個のごみ⇒1回拾えばすむごみなんですが、これが川を下っていくつもの破片に分かれてしまっていたら、1個のごみ⇒数百回拾わなければならないごみになっている。もともとこれらを捨てた人は、たぶん自分のごみが海岸を汚しているなんて思いもよらないのでしょうね。日常の暮らしと海洋汚染の関係に気づいていない。でも実際には、ごみ箱からあふれたペットボトルや、路上喫煙やクルマから投げ捨てられたタバコ、風に飛ばされたビニール袋などが風や雨に流され排水溝に飲み込まれて河川を通じて海に大量に流れ出す。たまたまその一部が海岸に漂着したものが海岸のごみの大半なんです」

下水の排除方式には、雨水と下水を別の系統で管理し雨水は直接河川や海に流す「分流式」と、雨水と下水をひとつの系統にあわせてすべて水再生センターに送る「合流式」というふたつの方式があるが、分流式の場合には排水溝に流れたごみはそのまま海に流れ出すし、合流式でも最近多い豪雨などの際には、許容量を超えて河川や海に流れ出してしまう。

「たとえばタバコはフィルターだけになっていたり、プラスチックは劣化して割れたり破れたりしていますから、ここ(海岸)で捨てられたものではないことは、ひと目でわかります。ビーチクリーンを体験してくれた人からは、『普段の暮らしぶりも変わりました』と言ってもらえることもあって。いま、海離れが進んでいるといわれますが、もっと多くの人が海に遊びに来てくれたらそれだけで、私たちの日常の暮らしと海は密接につながっていることに気づいてもらえるのにな、と感じてしまいます」

ここ数年、古澤さんをはじめとする多くの人々や団体の思いが通じはじめ、ごみ拾いがいい意味で「ありふれた」アクションになってきている。SNSでも毎日のごみ拾いをアップしている人がどんどん増えてきているのは心強い。

タツノオトシゴが生息する海を未来の子どもたちに

ビーチクリーンがある程度定着したいま、古澤さんに次の夢を聞いてみた。

「もともと私たちの夢、というかゴールは『江の島の海にかつて生息していたタツノオトシゴが戻ってくる』ことなんですね。だから、ごみ拾い活動と並行して『海創造プロジェクト』をスタートさせました。さまざまな生き物の棲みかとなって生態系を守る『海の森』を復活させようというプロジェクトです。」

ただ、ごみを拾うことはそれほど知識を要しないが、海の生態系を取り戻すというのは、そう軽々しくはじめることはできない。深い見識と慎重な取り組みが必要となる。

生態系を壊さないよう、地元・相模湾のアマモを卵から育て、波にさらわれない深さの海底に丁寧に植えていく

「自然そのものに人が手を入れることはとても難しいことですよね。うっかりのレベルでも生態系を簡単に破壊しかねない。そこで神奈川県水産技術センター主任研究員の工藤孝浩さんに監修いただいて、慎重に進めています。いま進めているアマモの繁殖は、相模湾のアマモの種をもらって育てて、それを植えていく作業ですが、台風の影響や海流の関係でヘドロが流れ込むとすぐに全滅してしまったり。さらに最近では、その種さえも手に入らなくなるほど環境が悪化してきている。まだまだ先は見えないほど長くて、地球温暖化やそれに伴う海水温の上昇や、河川から流れ込むCODと呼ばれる生活排水の影響などに加えて、最近では海底の土そのものの問題も課題としてあがってきました。ただ、それでも少しずつ進歩は見えてきています。先日、私たちが植えたアマモにはじめてコウイカが卵を産みつけてくれたときには感動しました。さらにラッキーなことにそのコウイカの卵が孵化する瞬間にも立ち会うことができたんです。こういうご褒美があると勇気が出ますね」

アマモに産みつけられたコウイカの卵。三歩進んで二歩下がるようなスピードだが、確実に前に進んでくれることを感じさせてくれる

17年前、ひとりではじめた一歩=ごみ拾い活動が、いまや海岸や町の雰囲気まで変えて、さらに湘南の海に豊かな生態系までも取り戻そうとしている。冒頭「次の一歩が見つかると思います」と語ってくれた古澤さんの言葉は、なるほど、まさに自身の実体験だったということか。

あらためて、はじめの一歩を踏み出したいのにきっかけがつかめない人がいたら、ビーチクリーンという選択肢に歩を進めてみてはいかがだろうか。自分の何かが変わる大切な次の一歩が、見つかるかもしれない。

毎月開催している海さくらの次回のビーチクリーンは9月17日に開催予定(海と日本プロジェクト 秋の海ごみゼロWEEK / WORLD CLEANUP DAY 2022HEROゴミ拾い)。

Official SNS

芸能人のインタビューや、
サステナブルなトレンド、プレゼント告知など、
世界と社会をよくするきっかけになる
最新情報を発信中!