SDGsを学べる!先端技術を体験できる!「日本科学未来館」って何だ!?【前編】
あなたは、日本科学未来館(以下、未来館)を知っていますか──。
東京・お台場(正確には江東区青海2丁目)にそびえ立つ未来館は、2001年7月に「科学技術を文化として捉え、社会に対する役割と未来の可能性について考え、語り合うための、すべての人々にひらかれた場」として開館した国立の科学館。こう聞くと、ついつい官製の「おカタい、お勉強の場」を想像してしまうのですが……いやいや、実際に訪れてみると大違い! その実体は、子どもはもちろんのこと、大人も、いや大人だからこそ楽しめる体験型のアミューズメントパークだったのです! (前編)
色鮮やかな地球ディスプレイを
眺めつつ未来を想う
新交通ゆりかもめに揺られながら東京湾の海を眺め、テレコムセンター駅を降りると、歩いて4分で未来館に到着する。全面ガラス張りの建物は、設立から21年たったいまも十分にモダンで、何よりデカい! まわりを歩くだけで結構運動になりそうだ。
入館し、エスカレーターを上がるとまず目に飛び込んでくるのが、巨大な吹き抜けで地上12mの高さにつり下げられた地球ディスプレイ、「ジオ・コスモス」(上写真)だ。昨年末から、11年ぶりのリニューアルのためいったん姿を消していたが、今年4月、ジオ・コスモスは再びその威容を現した。直径6m。表面には1万362枚もの最新LEDパネルが貼られている。なんでも以前は有機ELパネルが貼られていたそうで、たしかに、10年ほど前は有機ELが最先端といわれていたなあ……などと思いながら見ていると、地球上の美しく青い海、緑と茶色の大陸、真っ白な雲が流れるようすを映し出していたジオ・コスモスの色が変わった。音楽が流れて、イッツ・ショータイム! 4分間の映像作品「Into the Diverse World 多様な世界へ」がはじまったのだ。
水と雪、氷の循環を表す世界地図になったかと思えば、人工衛星の観測データによる現在の世界の地表面温度が、色別にわかりやすく示される。と今度は、世界のどこにどんな民族が住んでいるのか、どんな言語が話されているのか、パッと見でわかりやすく地図上で色分けして表示される。こんな映像が音楽やナレーションとともに次々切り替わって、ジオ・コスモスに映し出されるのだ。楽しいし、「社会の多様性」「サステナブルな世界に向けて、いま何をすべきか」が直感的に理解できて知的欲求が満たされる(気がする)。が、テンポがよすぎて、ぜんぶは確認できなかったよ〜! もう一度見返したいんですけど……え? 次回上映は2時間後? 待ちきれませんって!(8月の開館日は10時半、12時半、14時半、16時半からの4回、各回4分間の上映。9月からは一日6回に増える予定)
ところが、2時間なんてすぐつぶせてしまうのがこの未来館なのだ。常設展だけでも、前述のジオ・コスモスを含む「地球とつながる」ゾーンのほか、「世界をさぐる」「未来をつくる」と計3つのゾーンがあり、たとえばインターネットで情報が伝わる仕組みを白と黒2種類のボールの動きで視覚化した、巨大ピンボールマシンのような「インターネット物理モデル」は、動きも複雑で、大の大人がいつまでも眺めていられる。たしかに、デジタル通信は「0」「1」の信号だけで成り立っているという話は聞いたことがあるし、白黒のボールがその「0」と「1」の代わりだというところまではすぐに理解できるが、それが並んだり四方八方に散らばったり、ルーターを意味するタワーに蓄積されたりを見ていると、仕組みがわかったような、わからないような……で、結局飽きないのだ。
「人生100年時代」にこそ
科学技術が役に立つ
しかも、この日は130点、90種のロボットが集められた特別展「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」(8月31日まで)も開催されていて、一日で回りきれないのは確実な情勢だ。つくづく、未来館はよくできている。取材対応をしてくれた未来館の副館長、高木啓伸(ひろのぶ)さんに、「なぜ、こんなに大人も楽しめるのでしょうか」と尋ねてみた。
「はい、それが未来館の目的のひとつだからです。子どもだけでなく大人であっても、科学技術に触れ、体験していただくことによって、『こうした技術が世の中に普及したらどうなるんだろう』と想像力を膨らませてほしいのです。この技術を明るい未来につなげるには、どうしたらいいのか。他人任せでなく、自分ごととして考えていただくために、さまざまな常設展、期間限定の特別展などを用意しています」(高木さん、以下同)
入館料は大人630円。18歳以下なら210円で土曜日は無料だ(6歳以下の未就学児や障害者手帳持参者とつき添い1人は常に無料)。特別展には別途、料金がかかるが、かなりお得な「レジャー施設」といえる。
「20年ほど前、未来館が設立された頃は、コンピューターの速度が上がり、ロボットが実用化されたりして、『科学技術が社会を変えていく』『未来は輝かしいもの、夢のあるもの』と多くの方が捉えていたと思います。ところがいまは、地球温暖化やコロナ禍、そのほかの難局を社会が経験したことによって、科学は『少し怖いもの』、未来は『必ずしも明るいものではない』と意識が変化してきているような気がします。そこで未来館は原点に立ち返り、あらたに『Mirai can_! 未来は、かなえるものへ。』というスローガンをつくりました。ときに諸刃の刃である科学技術を正しく使って、明るい未来をつくる──。それをかなえるには、すべての人が、傍観者ではなく積極的に夢のある社会づくりに参加する必要があります。そういう願いを込めての、このスローガンです」
高木さんは、キャリア豊富な技術者でもある。
小学校6年生のとき、デジタルシンセサイザー(キーボード)という楽器が世に出てきたのを見て衝撃を受け、音楽グループ、TMネットワークにハマった。こうしてコンピューターの世界に触れて以来、科学技術ひと筋。大学も情報通信やAIといった方面に進み、日本IBMに入社。長年、研究職に携わり、2021年4月に研究職と兼任する形で未来館の副館長に就任した。
「私がシンセサイザーを入口にして科学に興味をもったように、お子さんはもちろん、すべての世代の方に、未来館がキッカケを与えられればうれしいですね。科学技術をうまく使えると、世界がパッと広がったりします。たとえば私の母は高齢ですが、スマートフォンで情報を得たり、友人と連絡を取り合ったりして人生を充実させています。新しい技術を恐れるのではなく、まずは体験してみること。それが『人生100年時代』には、ますます重要になってきます。私たち未来館が、そのお手伝いをできればと思っています」
──次回は、未来館で展示中の「未来のクルマ」「巨大ロボット」体験ルポをお届けします!
Photo:佐藤弓美 Text:舩川輝樹