ビニールカバーを「ごみ」ではなく、「当たり前の日常アイテム」に!
洋服を保護するポリエチレン製のビニールカバー。百貨店やアパレルショップのバックヤードで使われた後は、ただ捨てられる運命にあったこれらを回収し、再生への橋渡しをしようとしているのがRECOTECH(以下、レコテック)という会社です。同社CEOの野崎衛さんに、再生プラスチックの現状と展望を伺いました(後編)。
石油価格の高騰が再生プラスチックの追い風に
野崎さんは、リサイクル業界に20年ほど関わってきた。もともとはプラスチックを「捨てる側」の要請に応える、廃プラスチック圧縮機械の営業マンだったが、いまは「再生する側」の立場にフォーカス。百貨店やアパレルショップで毎日大量に消費される洋服ビニールカバーのリサイクルに取り組んでいる。
「百貨店やアパレル店のバックヤードには、大量の洋服のストックがあります。ハンガーに掛けられたそれらには、汚損などを防ぐため、透明のポリエチレン製ビニールカバーが掛けられています。これらはすべて、使用後は、ごみとして捨てられていたのです。毎日、信じられないくらいの量が……。
レコテックは、それらを回収し、専門の工場で融解して粒状の『PCRペレット』にしています。ペレットは再生プラスチックボトルなどの原料になります。その製造メーカーにペレットを販売するのが私たちの仕事です。現在は戦争などの海外情勢を受け、プラスチックの原料である石油の価格が急騰中。それに伴ってバージンプラスチック(再生されたものでないプラスチック)も高値になっているため、再生プラスチックへの注目度が上がっているところです」(野崎さん、以下同)。
世界的に見ても、これまでは新品のバージンプラスチックより、回収して、融かして……と手間ヒマのかかる再生プラスチックのほうが割高だった。しかし近ごろは、ほぼ同等の価格になっているのではないかと野崎さんは見ている。
「いま、世界中で大量のごみが出ていますが、捨てる場所がないという問題が発生しています。世界的な人口トレンドや石油など天然資源の埋蔵量を考えると、われわれはプラスチックとのつき合い方をあらためる必要がある。世界はこれから、資源獲得競争の時代に入るでしょう。再生プラスチックの存在感は、さらに大きくなっていくはずです」
こうした現状を受けて、プラスチックの処理に関する意識は日々変わってきているという。
「2015年に国連がSDGsを採択し、世界の環境への意識は大きく変わりました。海洋プラスチックやマイクロプラスチックの問題がクローズアップされ、これまでとは違う価値観が生まれつつあります。
環境への意識なくして、企業の発展は見込めないという流れも出てきました。世界中の若くて優秀な人材たちが、『社会貢献度の高い会社で働きたい』『いい加減なことをしている会社には入りたくない』という意識をもつようになってきたのです。サステナブルな配慮をすることが、優秀な人材をキャッチすることにつながる。『再生プラスチックをつかってコストが上がるとしても、優秀な人材が入社してくれれば、長期的には十分回収できる』と考える企業が増えてきました」
いま、再生プラスチックにはさまざまな追い風が吹いている。けれども材料となるプラスチックの回収には、まだまだ課題がたくさんあるという。
「プラスチックとして世に出ている『資源』は、地下資源のように、ある程度まとまった場所に埋まっているものを掘り出すというシンプルな方法では回収できません。広く薄く、いろいろなところに分散しているため、それぞれの場所で回収し、いったん1ヵ所にまとめてから再生する必要がある。その仕組みづくりに最も労力がかかるのです。つまり、パートナーとなる物流企業=回収業者がとても重要になってきます」
ひと口に「プラスチックやビニール製の梱包材を再生」といっても、回収して再生するには、さまざまなハードルがある。食品に使われていたものは食品衛生法による規制があり、薬品や産業廃棄物を包んでいたものは人体に害がある忌避物質を含む可能性がある。海外から輸入されたものには、安全性に確信がもてない、といった具合だ。
「その点、世界的なハイブランドのショップや百貨店から集めてきたビニールカバーなら、トレーサビリティの面で非常に信頼度が高い。清潔な場所で洋服を包んでいたものですから、異物が混入していたり、油などの汚れがついている可能性も低いでしょう。私たちが『アパレル業界から出るごみ』に着目したのは、そうした理由も大きかったのです」
まずはアパレルのビニールカバーを回収、再生プラスチックにすることでノウハウを蓄積し、その後、家具や嗜好品など、さまざまな梱包材の再生に手を広げていこうというのが野崎さんたちの計画だ。
再生プラスチックを「当たり前の日常アイテム」に!
プラスチックを再生し循環させていくことは、いずれ世界のスタンダードになっていくだろう。けれどもそのためには、3つのポイントをクリアする必要があるという。
「法整備、教育、技術革新です。ひとつ目の法整備には、国や自治体による規制や法律のほか、助成金などの財政サポートも含みます。ふたつ目の教育は、人々の意識を変革して『再生プラスチックをつかう=いいこと』と認識させること。最後の技術革新は、再生プラスチックのクオリティを高めるイノベーションを指します。マーケットが大きくなってニーズが増えれば、これらの課題はおそらく改善されていくでしょう」
20年ほど前に野崎さんが廃棄物に携わったころは、「ごみ関連の仕事は、会社の窓際にいるような人が担当させられるものというイメージがあった」とか。しかし現在では、多くの優秀な人材が企業の「環境担当」として、ごみやリサイクル関連の仕事にあたっている。
「とくに外資系企業では、そうした傾向が強いですね。選りすぐりのエリートたちが、ごみやその再生、環境問題に関わることを希望し、その仕事に携わっている。行政の動きも、海外のほうがずっと進んでいると感じます」
日本は天然資源に恵まれていないといわれる。だが、法整備と教育、技術革新が進んでいけば、豊かな資源、つまり再生資源に恵まれた国になれるのかもしれない。まずは、私たちひとり一人が意識を変え、再生プラスチックを「当たり前の日常アイテム」にすることからチャレンジしていこう。
text:萩原はるな