洋服の「ビニールカバー」を、ごみから資源に変えた会社
洋服を汚れなどのダメージから守るビニールのカバー。ショップ店頭でディスプレイされるときには外されているものの、お取り置きをしたり、サイズ違いをお願いしたりしたときなどに、目にしたことがあるでしょう。以前は毎日、大量に破棄されていたというこのポリエチレン製ビニールカバーを回収し、再生への橋渡しをしているのがRECOTECH(以下、レコテック)という会社。リサイクル関連の仕事に携わって20年以上という同社代表の野崎衛さんに、再生プラスチックの現状について伺いました(前編)。
毎日大量に出るごみに「このままでいいわけがない!」
もともとは原子力発電関連などの技術者を派遣する会社で、営業として働いていたという野崎さん。当時から「核のごみ」は問題になっており、社会が抱えるさまざまな課題に関心をもつようになったという。そして22年前、当時の上司から誘われて、環境先進国スウェーデンに本社をもつ、廃棄物処理機メーカーに転職した。
「2000年にダイオキシン類対策特別措置法が施行され、それまでのように焼却炉で産業廃棄物などを燃やすことが難しくなりました。そこで注目されたのが、廃棄物を処理するビジネス。私が扱っていたのは、廃プラスチックを圧縮して小さくする機械です。当時、日本にはそうした機械があまりなかったので、ありとあらゆる業界のメーカーや流通会社などから引き合いがあり、商談に行きました」(野崎さん、以下同)。
さまざまな業界の、日本を代表する大企業の工場を訪れるたび、そこで出ているごみの量に驚いたという。
「毎日すごい量を捨てているんだなあと、リアルにびっくりしました。当時、食品工場などでも、必要量の何倍もつくっては廃棄する、ということが日常的に行われていた。しかも私が手がけていたのは、ごみに関連したビジネス。『ごみがたくさん出るところ』に営業に行き、機械を売ったり、コンサルティングをするわけです。ビジネスは順調だけど、この状態が続くのは問題だなあ、とずっとジレンマを抱えていました」
野崎さんは、こうした課題の解決にチャレンジしたいと2007年に独立、レコテックを設立した。国連でSDGsが採択、設定されたのは2015年。野崎さんにはかなり先見の明があったといえるだろう。
「ごみ排出や処理の現場でよく耳にしたのが、『ごみが多すぎるから、処理をするのにも人手とコストがかかる。どうにかしてほしい』という悲鳴。そのため私は、『捨てる側』の都合をずっと考えてきました。でも、日々これだけみんなが大量のごみを捨てていたら、早晩行き詰まるのは目に見えている。つまり、再生することを考えなければならないわけです。ですからレコテックでは、ごみを回収して再生するという『受け入れ側』に立つ必要があると考えました」
そこで目をつけたのが、アパレル業界、とくに百貨店などでは毎日大量に廃棄物として出される洋服保護のためのビニールカバーだった。
「ごみを受け入れて再生する側に立ってみると、『ほかのものが混ざっていない単一素材であること』『安定的に一定量が手に入ること』『比較的、汚れが少ないこと』が重要です。アパレルのビニール袋はポリエチレン製で定期的に一定量を供給でき、洋服をカバーしているものなので油汚れなどもついていません。
以前は、こうしたポリエチレンの廃棄物は集められ、中国に送られて、買い取ってもらっていたのですが、中国が2018年にポリエチレンを含む廃プラスチック輸入に厳しい規制をかけたため、それができなくなった。そこで、宙ぶらりんになったビニール袋を回収して再生しようと考えたわけです」
現在野崎さんは、透明な洋服カバーに特化して、百貨店やショッピングモール、アパレルの路面店などを回って回収。その後はリサイクル原料である粒状の「PCRペレット」に加工し、再生プラスチックを加工する生産メーカーに卸す、というビジネスを展開している(PCRはPost Consumer Recycledの略で、消費後にリサイクルされたものを意味する)。
ポリエチレンを再生したペレットは、ややくすんだ色になるのが特徴。これは、ビニール袋に少量紛れ込んでいた値札などの紙が炭化したり、ポリエチレンとは溶ける温度が異なるポリプロピレンが混じっていて焦げたりするためだ。
「ポリエチレンを溶かす際に熱を加えるのですが、そのときに色がつくわけです。現在の再ポリエチレン再生プラスチックはくすんでいるし、場合によってはバージンプラスチック(=新品の原料を使ったプラスチック)をつかうよりコストもかかる。でも、環境や未来のことを考えて、『こういうのをつかっていかないとな』『高いけど、これを買ったほうがいいよね』と多くの人が思うようになればいいですよね。
今後、不純物を取り除く精度を上げることで、くすんでいないクリアな色のペレットができるかもしれない。マーケットが大きくなればなるほど、技術は進歩していくでしょう。私たちの取り組みは、やっと5割くらい達成できたところだと思っています」
―――後編は、リサイクルの専門家が語る「いま」と「未来」をお届けしますーーー
text:萩原はるな