衣服を届けるだけじゃない!ユニクロ難民支援16年間の本気度
2001年に社会貢献室を立ち上げ、2006年から難民の支援活動を実施しているユニクロ。回収した古着を難民に届ける活動から始まり、2011年には店舗での難民雇用がスタート、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)とのグローバルパートナーシップを締結し、難民への職業訓練や収入創出プログラムの提供を行っています。
ユニクロが長きにわたり難民支援活動を続ける意義はどこにあるのか。同社でサスティナビリティの取り組みに20年以上携わるファーストリテイリンググループ、コーポレート広報部長シェルバ英子さんに聞きました。
難民に職業訓練を施し、雇用もする
2001年、ユニクロは自社で販売したフリースの回収・リサイクルを開始。2006年には対象アイテムをフリースだけでなく全商品に拡大した。「RE.UNIQLO(リ・ユニクロ)」と名づけられたこの取り組みでは、回収した衣服は難民の衣料支援にあて、そのうち寄贈用に適さない状態のものは、固形燃料や防音材などに生まれ変わるという。
「衣服支援活動では、UNHCRに協力を仰ぎ、ニーズがある地域に衣服をお届けしています。着の身着のまま母国から逃れてきて、同じ服を繰り返し着ている難民の方たちにとっては、たった一着の古着が人としての尊厳を取り戻すキッカケになります。私たちは『服のチカラ(THE POWER OF CLOTHING)』と呼んでいるのですが、ファッションによる自己表現には、生活の潤いや勇気を与えるチカラがあると感じています」(シェルバさん、以下同)
取り組みにより前向きな変化が起きている一方で、「単に衣服を届けるだけでは不十分」とも語る。
「衣服を届ける際、実際に十数ヵ国の難民キャンプに足を運びました。そこで思ったのは、服が持つチカラはたしかに大きいけれど、恒久的な課題解決にはならないということ。ユニクロとして何ができるかと考え、2011年にUNHCRとグローバルパートナーシップを締結し、本格的な難民支援活動をスタートさせました」
以来ユニクロでは、自社店舗などでの難民の雇用やUNHCRへの資金提供を通じた難民への職業訓練、収入創出プログラムの実施など、多方面における難民支援活動を展開してきた。2022年までに難民の雇用は124名に拡大し、日本やドイツでは店長代行として活躍している人もいる。UNHCRへの資金提供の総額は、2021年末までに1500万ドル、2022年にはウクライナ支援として1000万ドルにのぼるという。
ユニクロが支援してきた難民の多くは、子どもを持つ女性たちだ。紛争などから逃れて避難するなかでパートナーと離れ離れになり、自身で家計を支えている人がほとんど。しかし、避難先で、あるいは自国に戻った際に家族の生活費を稼ぐ術を持ちあわせている人はほとんどいない。就業につながりやすい縫製やパソコンなどのスキルを身につけられる職業訓練や、それを生かせる雇用先が切実に求められているのだ。
ユニクロという認知の高い民間企業とパートナーシップを結ぶことの意義について、UNHCR 民間連携担当官 櫻井有希子さんは、こう語る。
「世界では今、紛争や迫害などにより、1億人以上もの人が故郷を追われています。とくにこの数十年は、避難を余儀なくされる人が急速に増えており、数はそれ以前の2倍にもなっているほど。各国政府、国連機関、NGOも対応や支援を続けていますが、難民のおかれる厳しい現状が完全に改善されるには至っていません。
このような状況下で、民間企業のみなさんがUNHCRとともに難民問題に取り組んでくださることは、とてもありがたいことだと感じています。難民となってしまった人々が、生まれ故郷ではない土地で暮らし、人生を再建していくには、地域社会や企業の、そしてさらには、そこで暮らす隣人など個人の理解と協力が欠かせません。ユニクロは、日本国内で最も多くの難民を雇用している企業です。難民のスタッフはユニクロ店舗で働くことによって収入を得て、家族を養い、それは、日本の社会の一員として自分で未来を切りひらいていく機会へとつながっています。
私たちは、ひとりでも多くの方に、この難民問題を知り、一緒に考え、行動してほしいと思っていますが、認知度の高い企業との連携だからこそ、その輪がより大きく広がってきていると実感しています。難民支援のニーズが刻々と変化するなか、企業の柔軟な発想に基づく持続的な支援は、UNHCRの難民支援活動に欠かせません」(櫻井さん)
難民がつくった商品をグローバルで販売
UNHCRが立ち上げた「MADE51(メイドフィフティワン)」は、世界の難民の職人が制作する手工芸品をグローバルで販売するブランド。ユニクロはその認知度向上や販路の拡大をサポートしている。
直近では、6月20日の「世界難民の日」に合わせて、南スーダンやエチオピアなどアフリカ地域をはじめ世界各国の難民女性たちにキーチェーンの制作を依頼し、日本と米国のユニクロオンラインストアで販売。東京や欧州の店頭で開催されたMADE51のポップアップストアでは、コレクションから厳選したアイテムが並び、多くが完売するほど好評だったそうだ。
購入した消費者からは、「難民の方がひとつ一つ丁寧につくっていると思うと、目に見えない価値を感じます」「細やかな彩りとしっかりとしたつくりで、手にとってみて、さらに気に入りました」といったコメントが寄せられているとか。
2013年12月以来、南スーダンでは残虐な紛争により多くの命が奪われ、約400万人が故郷を追われている状況が続いている。多くの人々が国内で避難生活を送るなか、200万人以上が安全な場所を求めて近隣諸国に避難。その一方で、経済的な問題を抱えた人や、子どもたちの学校教育を求める人など、50万人以上の難民が帰還しているという。
MADE51とユニクロがコラボレーションするのは2回目。前回と同じ難民のグループが制作に関わっている。
「今回、キーチェーン制作に関わった難民の女性は、年間を通してMADE51の制作に携わり、製品は公式オンラインショップで販売されています。今回のコラボ企画のように、外部からのオーダーが入ると、そのぶん生産の機会が増え、新しいデザインが生まれ、一人ひとりの技術も向上していきます。難民の女性たちは前回のコラボにも参加してくれたので、継続的な支援につながっています。ユニクロの品質基準は高いので、それをクリアするような製品を作ることは、彼女たちのモチベーションになっているという声も耳にします」(UNHCR櫻井さん)
アパレル産業の事業継続は「平和」あってこそ
こうした社会貢献活動を長く継続している理由について、シェルバさんは、「社会全体の安定がなくては私たちの事業は成り立たない」と話す。
「アパレルって平和産業だと思うんです。事業を継続させるには平和な状況が不可欠で、それを脅かす大きな問題のひとつが難民問題です。そう考えれば、私たちが社会貢献を続けるのは必然で、ビジネスを通じて問題解決に役立ちたい思いがあります」
現在、ユニクロの社会貢献活動に社内外で関心が高まりつつあり、新入社員の採用面接で志望者が「難民支援活動に共感して、ユニクロに入社したいと思った」と動機を語ることも珍しくないとか。社内では、各店舗の店長が率先して難民支援の意義を従業員に伝えるなどして理解を深めているという。
現在、ユニクロは全世界24の国と地域で、3500店舗以上を運営している。このグローバルなネットワークこそユニクロの強みだ。
「弊社の強みを活かすことで、多くの人に難民問題を知ってもらい、同時に商品購入を通じて支援活動へ参加していただくことができると考えています。今後も、現場に足を踏み入れ、現場の声を聞き、現場のニーズに応えた難民支援を継続していきます」
使わなくなった衣服を難民に届ける活動から始まり、いまでは難民のスキル習得を支え、彼らと一緒に仕事をするまでになっている。ロシアのウクライナ侵攻にも収束の兆しが見えない、こんな時代だからこそ、ユニクロのように、企業が取り組む難民支援はますます重要になってくるはずだ。
取材・文:小林香織 編集:大森奈奈 写真提供:Fast Retailing / Shinsuke Kamioka