奄美大島の最南端の町が挑む、ゼロカーボンへの取り組み
ワーク&バケーション=「ワーケーション」を満喫できるスポットとして、鹿児島県・奄美大島に誕生したコワーキング施設「すこやか福祉センター“HUB”」。高速インターネットなど快適な環境が整った仕事場でありながら、瀬戸内町ならではのアクティビティが体験できるのが特徴です。そんなアクティビティのひとつ、マングローブの種植えを体験するとともに、町が掲げる「ゼロカーボンシティ」に向けた取り組みを伺いました。
これがマングローブの種!? サヤエンドウみたい!
2021年7月に世界自然遺産となった鹿児島県の奄美大島。島の最南西端にある瀬戸内町は、加計呂麻島、請島、与路島など手つかずの自然が残る有人島を擁する、美しい海と山々に恵まれた環境が魅力の町だ。町役場の敷地内にある「すこやか福祉センター“HUB”(以下、HUB)」は、体験型のコワーキング施設。島の人々と交流できる「ハブ」としての役割を担うだけでなく、島の最先端の町・瀬戸内町の魅力に触れられるアクティビティも提供している。 アクティビティは大島海峡クルージング、釣りやダイビング体験、島の名産・黒糖焼酎のテイスティングのほか、マングローブの種植えや植樹体験などバラエティに富む。筆者も「マングローブ種植え体験」に参加した。
そもそもマングローブとは、熱帯および亜熱帯の湿地帯や干潟に生息する植物の総称。満潮になると海水が満ちてくる河口などにあり、オセアニアや東南アジア、アフリカ、北アメリカ南部などの沿岸に分布。日本では沖縄の島々や鹿児島の奄美大島、種子島、屋久島などで見られる。
奄美大島ではおもにヒルギ科の「メヒルギ」と「オヒルギ」が生息。住用町のマングローブが有名で、役勝川と住用川が合流する河口域に71ha以上にわたるマングローブ原生林が広がっている。瀬戸内町には小名瀬地区の干潟でマングローブが自生しており、町ではこれらを大きく育て、マングローブ原生林を形成していこうと考えているのだ。
種植え体験は、HUBのテラスで行われた。メヒルギの種はインゲン豆の鞘のような色と形をしており、長さは10~15㎝ほど。その形状に合わせた深さのある種植えポット(ビニール製の鉢)に土を入れ、種を垂直に種を挿して植えていく。
「マングローブが育つためには、太陽の光と少しの塩分、たくさんの水、それと湿気が必要。こうして人の手を入れてケアをしながら、マングローブ林を豊かにしようと思っています。町では6月から種の植えつけをはじめ、町役場や漁業協同組合、HUBで300本ほど育てているところです。11月ごろにある程度育ったものを、小名瀬地区の干潟に植えていきます」(瀬戸内町水産観光課水産振興係・禧久幸太係長、以下同)
マングローブが育つ泥炭には、豊富な炭素蓄積機能がある。そのため、温室効果ガスの吸収源として、世界中から注目を集めているのだ。
「瀬戸内町では2021年7月に『2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする』目標を掲げ、『ゼロカーボンシティ宣言』をしました。その試みのひとつとして、海の植物が吸収する炭素『ブルーカーボン』に着目。マングローブを増やす取り組みも、ブルーカーボン造成の一環として行っています」
ブルーカーボン造成への取り組みとして、瀬戸内町では3年ほど前から「藻場再生プロジェクト」を推進してきた。
「昔から大島海峡にあった海藻『ホンダワラ』や『アマモ』などの藻場を再生させるプロジェクトです。魚たちに食べ荒らされないように、生息地をネットで覆うことで、少しずつ成果が出てきました」
獲れる魚の量が減っていることは、漁師たちが日々肌で感じている。そのため海を豊かにし、地球環境を守るこの試みは、町の水産観光課や漁協主導で行っているという。
「藻場の再生によって水産資源が増えることは、漁協にも大きなメリットがあります。『白浜のホンダワラにイカが産卵していたよ』などと報告すると、みんな喜んでいます。水揚げ量を上げたくても、このところの燃料の高騰で、船を出せない日も多いんです。そんな現状ですからこそ、もっともっと、みんなにいいニュースを届けたいですね」
「近大マグロ」で有名な近畿大学や大手食品会社のマルハニチロも、この海峡でクロマグロやタイ、ハマチを養殖している。減っているとはいえ天然の水産資源も豊富で、カンパチやタチウオ、イカ、キハダマグロ、ムロアジなどが獲れる。
瀬戸内町と密接に連携しているHUBでは、ブルーカーボンなど町の取り組みにも参加できるアクティビティを展開している。心地よい環境で仕事をしながら、島の景観や美食、温かい地元の人たちに癒され、かつゼロカーボンに向けての活動にも参加できるのだ。世界遺産の島での得難い体験を、ぜひ味わってみてほしい。
photo:横江淳 text:萩原はるな