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「1階づくりはまちづくり」まちに人の居場所をつくるプロフェッショナル
「1階づくりはまちづくり」まちに人の居場所をつくるプロフェッショナル
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「1階づくりはまちづくり」まちに人の居場所をつくるプロフェッショナル

未来に向けた独自の取り組みやユニークな視点を紹介するFEATURE。今回取り上げるのは「1階づくりはまちづくり」をモットーに、人気の「喫茶ランドリー」を運営する株式会社グランドレベル。年齢・性別などの属性に分けない、老若男女がくつろげる場を通して、「幸せなまち」の実現を希求している。「無料のコーヒーを振る舞うことから始まった」という田中元子社長に、建物と人、まち、コミュニティの未来についてお話を伺った。

撮影/前田一樹  取材・文/林口ユキ

2018年、東京都墨田区の住宅地にオープンした「喫茶ランドリー」は、広さ100平米ほどの店内にコーヒーやケーキ、カレーなどが楽しめる喫茶スペースと、ランドリーやアイロン、ミシンが使える「まちの家事室」が一体化したスペースだ。地域の家族連れや高齢者、ノートPCを広げてテレワークをこなす人、コロナ禍以前は遠くから訪れる観光客も多かった。店内には古着や手作り小物、LPレコードなどの販売コーナーもあり、時にワークショップや講演会のイベントスペース、アート作品のギャラリーなど、臨機応変に姿を変える。

どんな人でも自然と居られる場所に

「おひとり様でも、お年寄りでも、赤ちゃん連れでも、自然とそこに居られるようこしらえました」と語るのは、運営を手掛ける田中元子社長。2016年に「1階づくり」をテーマに掲げる株式会社グランドレベルを設立したちょうどその頃、このビルの1階開発の相談を受けた。

「どんな場所にしようか考えたとき、以前滞在したコペンハーゲンのランドリーカフェが思い浮かびました。そこでは老若男女、あらゆる層の人々が、同じ場所でそれぞれ自由に過ごしていた。その光景を見て、いいなと思うよりもショックでしたね。日本では見慣れていないから。
日本ではターゲットを絞ったビジネス、例えば30歳代女子のためのカフェとか、高齢の方が集まりやすい集会所とか、属性で分けられているスペースが多いでしょう? でも地域には老若男女、さまざまな人が住んでいます。同じような属性の人が集まる場だけをつくっても、そのまちの本当の姿が見えてきません。
私はこの地域の住民でもあるので、どんな人も自由にくつろげるランドリーカフェを提案しました。この企画を実践してくれる事業者が見つかれば、私の仕事は完遂するはずでしたが、お店を運営してくれる方がいなかったので、ならば自分たちでやろうか、となったわけです。飲食店やランドリー経営のノウハウも持たないのに、無謀な船出でした」

1階は他のフロアとは明らかに性質が違う

そもそも、なぜ1階づくりを始めたのか。コーヒーを振る舞うのが趣味だという田中社長は、以前から時折まちに屋台を出して、道行く人に無料でコーヒーを手渡しながら交流を楽しんでいた。そんなとき、ふとまちの風景に違和感を持った。都心のビルやマンションの1階のほとんどが、壁やエントランス、ガレージばかり。住宅地なのに人が住んでいる気配が感じられないのは、1階の活用の仕方が間違っているからではないかと考えるようになった。

「このまま殺風景な通りを眺めながら暮らしていくなんて……とモヤモヤしました。もともと私は建築関係のライターをしていたので、都市計画や建築は総合的につくられるのであって、1階だけが特別視されることはないとは理解していました。でも、1階は明らかに2階以上や地下フロアとは性質が違うぞと。そこで、1階づくりにフォーカスした会社をつくろうと。その時点で具体的な仕事はなく、思いつきだけでしたが、いろんなところにアピールしているうちに、このビルの相談を受けたわけです」


喫茶ランドリーは2017年末のプレイベントを経て2018年1月にオープン。そのときも、田中社長は得意のフリーコーヒーを道行く人に振る舞った。
「コーヒーひとつで会話のきっかけになります。時間がある人には店内で少しゆっくりしてもらう。そうすれば、きっとまた来てくれるだろうと。最初はそうやってお店の前を通る人とつながりをつくっていきました」

喫茶ランドリーの裏テーマは「私設公民館」

オープンして早々に、喫茶ランドリーはユニークなコンセプトが話題となる。そして、田中社長が初めに思い描いていたように、地域のお年寄りや家族連れ、おひとり様など、多様な人々が訪れる店となっていった。
「地域の人たちに受け入れられるのは、意外に早かった。もっと時間がかかると思っていました。日本人はシャイなんてよくいわれますが、歴史的にそうだというわけではないですしね。属性で分けられた空間で、自分が場違いなところに居ると思ったら恥ずかしいかもしれませんが、自然に居られる場所だったら、そんなにシャイになることもない。私自身もこの店のおかげで、マンション暮らしでは触れ合えなかった地域の人たちと接点ができていきました」


飲食店やランドリービジネスとしての採算は、すぐに結果が出るわけでない。低空飛行ながらもコツコツと息の長いビジネスとして続けていくことを目指している。喫茶ランドリーのテーマは、明日儲かるビジネスではなく、「私が勝手につくる、私設公民館」だという。1階が自由なパブリックスペースになれば、まちも活気が出てくるだろう。
一方、グランドレベルには「喫茶ランドリーのような場をつくりたい」という依頼が増えている。クライアントも喫茶ランドリーに来てもらえば「ここ! こんな感じの空間が欲しいです」と、イメージが共有できるので、仕事もやりやすいという。
現在、喫茶ランドリーは神奈川県の宮崎台やホシノタニ団地にも誕生し、同様のコンセプトでは東京都江東区の清澄白河、福岡市中央区の谷、千葉市緑区のスーパーマーケットの軒先、奈良県生駒市のコミュニティステーション、沖縄県糸満市や北海道帯広市と、全国に広まっている。
「それぞれのお店が目指していることは、クライアントによって異なりますが、“あなたが楽しみたい場所をつくることを応援します”という姿勢で取り組んでいます」

SDGsの18個目に「孤独と低い自己肯定感の改善」を

喫茶ランドリーは話題のショップでありながら、地域にもゆるやかに溶け込んで、「どんな人でも自由にくつろげる」という目的を果たし、地域の人々をつないでいる。SDGsに当てはめれば、「11.住み続けられるまちづくりを」を担う取り組みだろうか。
「サスティナブルであること、インクルーシブであることが目標というより、やりたいことが結果的にそうなっていければいいと思います。17個の開発目標が並ぶSDGsのロゴを見ると、18個目にあたる部分が空欄になっていますよね。私はその18個目に『孤独と低い自己肯定感の改善』を入れたいのです。それが今の日本の課題だと思っていますし、17個の目標に取り組むための土台として必要だから。孤独や自己否定にさいなまれたままで、他の17個の目標を“自分事”と捉えることは難しいのではないでしょうか。
そうした意味で、私ができることは、1階を好ましい風景にすること。壁やガレージだらけの通りより、気軽に入れるお店、きれいな花、腰かけられる場所にあふれる通りなら、まちを歩くのが楽しみになる。人が表に出てきて足を休める場所があれば、たびたび会ってあいさつする人ができる。なんとなく顔見知りが増えていく。喫茶ランドリーの存在がそんな幸せなまちの起点になれたらうれしいですね。
ちょくちょくお店の前を通る小学生の男の子がいて、声をかけると、恥ずかしそうにしつつ、会釈してくれます。あいさつを交わすのは、嫌じゃなさそう。いまの子どもたちもさまざまな悩みを抱えていると聞きますが、通り道でそんな一瞬があるだけでも、何かの助けになれたらいいなと思います」

喫茶ランドリー
東京都墨田区千歳2-6-9 イマケンビル1階
最寄り駅:森下駅(都営新宿線・大江戸線)A2出口より徒歩5分(450m)
両国駅(JR総武線)東口より徒歩8分(800m)
徒歩10分圏内には、吉良邸跡、江戸東京博物館、両国国技館、すみだ北斎美術館、旧安田庭園などの見どころもある。
公式サイト

株式会社グランドレベル
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