「障害者アートが地域や社会を変えていくきっかけ の第一歩になることもあると思うんです」 認定NPO法人アール・ド・ヴィーヴル理事長 萩 原美由紀【後編】
認定NPO法人「アール・ド・ヴィーヴル」では、障害者が“自分らしさ”を追求するアート創作活動によって、障害者の自立支援を行いながら、社会とのつながりを深めている。理事長を務める荻原美由紀さんは、そのために障害者アートを事業化し、多角的に展開している。前編に続き、荻原さんがもっとも大事にしている「コミュニケーションによってファンを作ること」について話を聞いた。
前編はこちら
撮影/徳山喜行 取材・文/橋富政彦
創作活動で対価を得ることが自信と誇りに
神奈川県小田原市のNPO認定法人「アール・ド・ヴィーヴル」は、障害のある人たちにアート創作活動の場を提供する自立支援に取り組んでいる。施設のアトリエで創られた作品の発表の場となっているのが、年に1〜2回の定期開催をしている展覧会だ。
「次回の9月22日の開催で、展覧会は第12回目を迎えます。この展覧会では、アール・ド・ヴィーヴルの“作家”全員が作品を展示し、それぞれ自作について語る“ギャラリー・トーク”を行っています。これがとても盛り上がるんですよ。みんな自分の言葉で自分の表現を一生懸命に説明して、来場者はそれにしっかりと耳を傾ける。時に意外な気づきがあり、なんだか特別な時間の流れを感じます。このような作家ひとりひとりがスポットライトを浴びて、作品を評価してもらえる“ハレ”の場は、私たちにとって、とても大切なものです」
こうした展覧会ではそれぞれの作品やオリジナルグッズの販売も行っている。アール・ド・ヴィーヴルのアート創作活動は、障害者の日々の趣味や気晴らしではなく、れっきとした事業活動だ。施設内のカフェ&ギャラリー、アトリエでも常時、作品の展示販売を行っているほか、法人向けの作品リースも行っていて、その契約数も順調に伸びているという。その収益は事業活動就労B型・生活介護事業所としての作業分として、工賃に上乗せして利用者全員に分配される。また、絵画などの著作物が売れたときは、その作家に対して売り上げの半額が支払われるようになっている。
「福祉施設なんだからお金を儲けることなんて考えなくてもいいという人もいます。しかし、収益を上げなければ工賃は上がりません。工賃が上がれば、みんながもらっている障害年金にプラスしてひとり立ちできるようになる人もいるんです。それを目指して頑張っている人もいます。そして、何より自分の創作活動に対価が得られることが、自信と誇りにつながるんですね。みんなの創作活動を事業として成立させることは、大きな意味があることなんです」
作家や作品の魅力を感じてもらうためのコミュニケーション
アール・ド・ヴィーヴルの活動が広く知られるようになったことで、自治体や企業からデザイン画や壁画制作を依頼される案件も増えてきた。
2021年9月に小田原市にオープンする文化施設「三の丸ホール」の大ホールには、アールの作家24人が共同で描いた全長6メートルの壁画が常設展示される。これは地元銀行のさがみ信用金庫に依頼された仕事だ。そのほか、川崎埠頭や箱根強羅公園での壁画制作、東京・大手町の商業施設オフィスフロアの床材デザインに絵画作品が使用されるなど、事業としてさまざまな実績を上げている。
「ちゃんと収益を上げていくためには、自治体や企業のコラボ事業を継続的に行い、事業としての“面”を増やしていくことが必要です。ただ、私たちはやみくもに作品を商品化して売り上げを上げるようなことはしません。みんなにとって大切なことは、自分の仕事を認めてくれて『これは良いね』と言ってくれる人のそばにいること。
ですから、私たちは基本的に自分たちがやるべきだと思える仕事以外の受注生産もやらないようにしています。締め切りに追われて、みんなが自分らしい作品を創ることができなくなったら意味がありませんから」
だからこそ、萩原さんはアール・デ・ヴィーヴルの作家とクライアント・顧客とのコミュニケーションをとても大切にしている。
「障害者アートに興味を持ってくれた方は、1度くらいは作品やグッズを買ってくれるかもしれません。しかし、それを2回、3回と買っていただけるようにならなければ事業としては成立しません。そのために、それぞれの作家や作品の魅力を感じてもらい、ひとりでも多くのファンになってもらう。その環境を提供することが私たちの仕事なんです。
例えば、法人の絵画リースのお仕事も、作家のみんなを連れていって一緒に絵画の掛け替えをするようにしています。そこで社員の皆さんとお話をしているうちに理解や共感が深まり、それが新しい仕事につながることもあるんです。リース契約をしているあるIT企業では私たちの作品からヒントを得て障害のある人でも文字入力できるシステムを開発して特許を取得したんですよ。それを利用した障害者雇用も実現しています。こうしたことがあると本当に嬉しいですね」
アール・ド・ヴィーヴルのしていることは“社会彫刻”
「アール・ド・ヴィーヴルの作家や作品のファンは着実に増えている」。最近ではそう実感することが増えてきたと萩原さんはいう。
「8年前に初めて『ともに生きるアート展』を開催したときの来場者は200人ぐらいでしたが、今では1000人以上の方が来場してくれます。しかも、かなりの割合が3回以上のリピーターです。来場者アンケート読ませてもらったり、お話を聞かせてもらったりすると、好きな作家の新作が見たかった、あの作家の話をまた聞きたくなった、という声がとても多い。そういったファン層がじわじわと広がってきている実感がありますね。
SDGsの流れから、障害者アートに興味をもってくれる企業も増えてきています。もちろん課題はまだ多くありますが、コミュニケーションを重ねていくことで障害理解を深めていけますから。今後も障害者の人たちが自分らしさを発揮できる、本当の意味での適材適所となる就労支援を行っていくつもりです」
障害を持つ人々が、自信を持って自由に自分を表現できるようになる。それは周囲の環境にも影響を与えるものになっていくだろう。アール・ド・ヴィーヴルのアート創作支援は、サステナブルな社会の実現にもつながっている。
「ある人に『アール・ド・ヴィーヴルがやっていることは、“社会彫刻”のようなものだね』と言われたことがあるんです。障害者アートを介して社会を変えていっているんじゃないか、と。すごく嬉しい言葉でした。
これからも、ただ待っているのではなく、自分たちのやっていることを社会に向けてどんどん発信していこうと思います。そこから自ずと新しい出会いも生まれてくるでしょう。実際、こうした活動を通じて、地域社会にも影響を与えていくことができたような気がしますし、アール・ド・ヴィーヴルの作品を見ることで、他の地域でも同じように障害者アートに取り組む人が出てくるかもしれません。そんな風に少しずつでも広がっていけば、私たちの活動が本当に社会を変える第一歩になるかもしれませんよね」
認定NPO法人アール・ド・ヴィーヴル
〒250-0055 神奈川県小田原市久野403-17
TEL:0465-25-4534
FAX:0465-25-1935
http://artdevivre-odawara.jp/
お知らせ
展覧会「自分らしく生きる12」
2021年9月22日(水)〜27日(月) 10:00〜18:00(最終日16:00まで)
会場・ギャラリーNEW新九郎
神奈川県小田原市中里208 小田原ダイナシティWEST MALL 4F
TEL:0465-20-5664
【ギャラリートーク】
9月23日(木)14時~(先着制)
中津川浩章・萩原美由紀 アール・ド・ヴィーヴルのメンバー
於:ギャラリーNEW新九郎