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天然藍染めが「伝統工芸でありつつ最先端の染色法だ」と言えるワケ【後編】
天然藍染めが「伝統工芸でありつつ最先端の染色法だ」と言えるワケ【後編】
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天然藍染めが「伝統工芸でありつつ最先端の染色法だ」と言えるワケ【後編】

これからのものづくりに“サステナビリティ”は欠かせない視点。地球環境は守られているか。働く人たちへの配慮がされているか。残すべき伝統がきちんと次世代へ継承されているか。私たちはつくられた背景に賛同し、応援する気持ちで選びたい。つくり手の思いを聞きに、ものづくりの現場を訪ねました。今回は、徳島県の「Watanabe’s」へ。

▼前編はこちら

天然藍染めに新しい発想で
挑戦する人が増えてほしい

右が乾燥させた藍の葉、左が4ヵ月発酵させてできた蒅。渡邉さんは実験的に従来つかわれてこなかった藍の枝も少し混ぜてつくっている

「ここからはちょっと化学の授業みたいになりますが」と言いながら見せてくれたのは、染色液をつくるための材料。木を燃やした「木灰」、貝を燃やして作った「貝灰」、そして麩。これらを蒅と混ぜて、染色槽に入れて発酵させる。「藍建て」という材料の調合や発酵の加減によっても色の出方は大きく変わる。

染色槽の状態を毎日記録する

「うちには8つの染色槽がありますが、すべて材料の調合具合や発酵時間が異なります。出したい色によってつかい分けるのですが、常に発酵が進んでいるので、日々状態は変化します。だから毎日試し染めをして確認します。まるでメディカルチェックみたいでしょう。でも染色液そのものが生き物なので、そういう表現がしっくりきて当然かもしれませんね」

染色液から取り出して絞ると、美しい青が発色する

ところで、ドラマチックな色変化が起こる藍染めの魔法はどんな仕組みなのか。

「藍染めは『酸化と還元』という化学反応を利用した染色法です。美しい青色は藍の葉に含まれる『インディゴ』という色素によるものですが、それは水に溶けない物質。でも染色槽の中で発酵させることで水に溶ける物質に変化するんです。すると繊維に染み込ませて染色できるようになる。しかしこの物質は空気に触れて酸化するとまた不溶性の『インディゴ』に戻ります。染色液から生地を取り出して絞ったあと、ブワッと青色が発色するのは、この酸化の瞬間なんです」

天然の素材から色素を得て、発酵によって還元させ、自然な化学反応だけで繊維に色素を定着させる。これが藍染めの魔法の方程式だとしたら、発見した人は天才だ。しかも6000年以上前から、世界中でおこなわれていたという。

藍染めを施した糸でニットを編むことにも挑戦中。いまではごくわずかな工場でしか行っていない「吊り編み」によって生まれた生地は柔らかくフワフワ

「伝統工芸と呼ばれることが多いですが、僕にとっては現在進行形のもの。伝統を重んじるあまり保守的になりすぎて、美術品のように扱われてしまったら、それこそ歴史は途絶えてしまうかもしれない。天然藍染めは自然の素材と空気と水だけで繊維を染める技法で、染色によって生地が強くなり、抗菌作用も生まれます。それって最先端の染色法だと思うんです。だからこそ新しい発想で天然藍染めに挑戦する人が増えてほしいし、そうして生まれたプロダクトを日常のものとしてつかってほしい。時代や地域の環境に合わせた形で藍染めを伝えていけたらと思っているんです」

天然藍染めで出せる色は無限。染色を重ねることで濃淡のグラデーションを出していく。この日はビンテージのアランニットの染め直しの依頼を受けて手を動かしていた。10代から洋服が大好きという渡邉さん、依頼主の要望を聞きつつ、預かった服のデザインや佇まいから似合う色を想像。理想に近づけるように染色を重ねていく

渡邉さんがつくるTシャツや雑貨は若い世代に人気のセレクトショップなどでも扱われ、着古した服を藍染めによって生まれ変わらせる染め直しサービスには全国から依頼が舞い込む。藍染めが身近なものになっていくことが何よりうれしい。

「もう捨てようかなと思っていた服も、藍染めを施すことでカッコよくなる。服を大切に、長く着るということも藍染めを通して知ってもらえたらいいですね」

Watanabe’sの服がつくられる背景、その奇跡のような過程に思いをはせると、その服に触れる手は自然とやさしくなる。染め直しによって美しく生まれ変わった古着もまた然りだ。染めを重ねるたびにその青の色が深まっていくように、毎日着る服への愛着とリスペクトが増していく。渡邉さんの藍染めの持つ本当の魔法は、そういうものなのかもしれない。

Watanabe’s

天然藍染めによるプロダクトづくりのほか、郵送による服の染め直しサービスも行う。直接工房を訪れて自分の服を染める染色体験もできる。徳島県板野郡上板町瀬部314-10 watanabezu.com

●情報は、FRaU2023年1月号発売時点のものです。
Photo:Kasane Nogawa Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子

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