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住みたい場所を決めてから仕事を探す! 35歳で三重・奥伊勢に移住した元中学校教師の田舎暮らし【後編】
住みたい場所を決めてから仕事を探す! 35歳で三重・奥伊勢に移住した元中学校教師の田舎暮らし【後編】
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住みたい場所を決めてから仕事を探す! 35歳で三重・奥伊勢に移住した元中学校教師の田舎暮らし【後編】

働く現役世代の場合、「仕事のある場所に住む」というのが一般的な考え方でしょう。しかし、アウトドア体験を提供する旅行会社「Verde大台ツーリズム」を経営する野田綾子さんは逆でした。「住みたい場所で仕事を探す」と35歳で三重県の奥伊勢地方に移住、起業したのです。とはいえ、必ずしも住みたい場所でやりたい仕事が見つかるわけではありません。移住先で仕事を探すうえでの心構えや、“仕事ではなく住む場所で自分の人生を決める”という価値観など、野田さんに聞きました。

日本三大渓谷のひとつで登山ガイドに

働き盛りの世代にとって、生業(なりわい)をどうするかという問題はとても重要だ。移住を考えている人の場合は、事前に働き口があるかをリサーチしたり、具体的にどう働こうかとイメージしたりするのが一般的だろう。しかし野田さんは、「地域で求められることをやるのもいい」と教えてくれた。

「私は中学校の教員をしていましたが、地方公務員のため県外移住にあたって退職しました。一方、夫は『自然に関わる仕事がしたい』という想いがあったので、移住先ですぐに林業の仕事を見つけて働き始めたんです。おかげで私は、『ゆっくり仕事を探せばいいや』という気持ちになれました。わが家は子どももいなくて自分につかう時間もたくさんあり、経済的にも焦る必要がなかったので、まずは家庭菜園とか、近くの登山道を踏破するとか、自分が好きなアウトドアの時間を過ごしていました。その1年の間にいろいろな出会いに恵まれたんです」

奥伊勢地方は林業も盛ん。野田さんの夫は地元の林業会社に就業している

ゆっくり働く準備をしていた野田さんはある日、約大災害の影響で10年間閉鎖されていた日本三大渓谷のひとつ、大杉谷の登山道が再開されるというニュースを耳にした。

「そこでガイドができる人を募集していたんです。移住後に仲よくなった人が、私がアウトドア好きだということを知っていて、『これ、野田さんに向いてるんじゃない?』と仕事を紹介してくれた。おかげで、大谷町の観光協会に籍を置いてガイドとしての研修を積み働くことになりました」

日本三大峡谷のひとつと言われる大杉峡谷。眺めていると時間を忘れてしまうほどの美しさ

この仕事が思っていた以上に楽しかった、と野田さん。

「続けるうちに、もっと奥伊勢の美しさを広く知ってもらいたいという気持ちがどんどん強くなって。登山ガイドだけでなく、大杉谷から流れる川を案内するSUP(サップ)やカヤックなどのパドルスポーツのガイド資格もとり、自分で会社をおこしたいという思いが膨らんでいったんです」

日の出とともに働き始め、日が沈めば帰宅する

2016年秋、野田さんは登山ツアーを提供するVerde大台ツーリズムを設立する。最初は登山ガイドの仕事がメインだったが、次第にビジネスの範囲は広がっていく。カヌーやSUP(サップ)体験、サイクリングやイーバイクツアーの提供、さらにはゲストハウス、長期滞在向けのシェアハウス運営までもおこなうように!

ガイドとして働く野田さん。もともとアウトドア好きだったので、毎日が楽しくてたまらないという

「求められるままに仕事の範囲を広げていったら、こうなっていました。おかげでいまは、大忙しの毎日です。朝5時に起きてデスクワークをして、8時から16時まではガイドの仕事。日の出とともに動き出して、日暮れとともに家に帰ってくるという生活です。オンシーズンの日中は息つくヒマもありませんが、人間らしい暮らしをしている実感がありますし、何より美しい景色を見ながら働けるので、お客さんを迎える準備をしているときはいつもワクワクしています。自分がやりたいことを探すのもいいけれど、移住した先で自分に求められる仕事もあると思います。そういう仕事の見つけ方もいいんじゃないかな」

シェアハウスの「まてハウス」。ここに長期滞在して、自然を楽しみながら仕事をする人も多いという

いまの仕事が、晴耕雨読を実践できることも気に入っている。

「天気がいいと気持ちよく働け、天気が悪いと否が応でも仕事ができなくなる。自然環境に逆らわず生きるのも気持ちがいいものです。悪天候の日は潔くあきらめて、友達に会いにいったり、カフェでコーヒーを楽しんだりしていますね。都市で働いていたときは、どんな天気でも時間でも仕事しようと思えばできてしまうので、休むのが難しいところがありました。自然を扱う仕事は、オンオフをスッパリ切り替えられるのもよいと思います。とはいえ、台風の前などは、キャンセル処理の嵐で苦労するんですけどね(笑)」

「Verde大台ツーリズム」にはカヌーやSUPなど、水上アクティビティを楽しめるプログラムも多くある。

「自分の人生を自分で決められている」という喜び

気づけば移住から12年が経った。今の生活でもっとも幸せを感じるのはどういう瞬間なのだろう。

「都市で働いていたころは、残業していて気づけば夜の10時、11時、あわてて閉店間際のスーパーに駆け込んで半額のお惣菜を買う、なんてこともよくありました。でもここでは、そんな働き方は絶対できません。私も夫も、17時前にはすべてを終えて家に帰っています。そこからは完全に夫婦の時間。ゆっくり夕食の支度をして、18時ごろに食べ、そのまま、おしゃべりしたりテレビを見たりして22時には寝ます。そんな過ごし方が、いまの私にとってかけがえのないものになっています」

移住してから家族の時間が圧倒的に増えた。それは野田さんにとって、1日のなかでもっとも幸せを感じる時間だという

いまは、自分で自分の生き方をコントロールできている実感があるという。

「この先も何が何でもこの場所に住み続けるんだ、という思いはないんです。私にとって一番大事なことは、家族と一緒にいられること。それが叶う状況なら、もちろんここに住み続けたい。だけど、もしもひとりになるようなことがあったら、また住みたい場所は変わるかもしれません。それでも、きっとまた、その場所で求められる仕事をすると思います」

Photo & Text:山本奈緒子

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