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イベント来場者5000人超え!女性の心身の悩みや痛みに寄り添う「フェムテック」の“いま”
イベント来場者5000人超え!女性の心身の悩みや痛みに寄り添う「フェムテック」の“いま”
FEATURE

イベント来場者5000人超え!女性の心身の悩みや痛みに寄り添う「フェムテック」の“いま”

近年、盛り上がりをみせるフェムテック市場。米調査会社フロスト&サリバンによると、2025年には世界全体の市場規模が5兆円規模にまで達すると予測されています。そんななか、「あなたのタブーがワクワクに変わる日まで」をビジョンに掲げ、アジア・日本のフェムテック市場の創出、拡大を目指す「Femtech Fes! 」が3日間にわたり六本木アカデミーヒルズ で開催されました。

フェムテックとは、月経、妊娠、出産 、更年・老年期まで 、女性の心身の健康課題の解決をサポートするプロダクトやサービスのこと。日本でもプロダクトを手にする機会が増え、身近な存在となりつつあるが、まだまだタブー視する向きもあり、課題は山積みだ。

そんななか、fermata(フェルマータ)では、2019年開催の「第1回Femtech FES!」以来、一貫して「あなたのタブーがワクワクに変わる日まで」をビジョンに市場の理解促進を訴えている。

あれから4年、女性の健康課題にまつわる市場は、フェムテックというキーワードとともに市民権を得てきた。今後、それがさらに早いスピードで拡大していくだろうことは、会場を訪れた来場者のワクワクした表情から感じ取れた。

女性の心身の健康課題を扱う200ものプロダクト

選択肢を知る、サービスを体験する、自身を見つめ直す……市場のいまを氷山に見立てた会場には200ものプロダクトが並び、来場者は5000人超。主催者の「女性の健康課題と本気で向き合います」というパワーに呼応するように、来場者も熱心な眼差しで出展者の想いに耳を傾けていた。

氷山の「海面の下」エリアでは、「フェムテック市場をとりまくルールの課題」「バイオメトリックデータの未来」「妊娠しやすい時期をさまざまな方法で知る」など、多角的に学びを得られるブースを設置。日本でまだ手に取れないものも含む世界の最新フェムテックを展示

トイレットペーパー型生理ナプキン

「まだ満たされていない、生理のニーズ」ブースでは、アメリカ発のトイレットペーパー型生理ナプキン「Pads on a Roll」が展示されていた。トイレットペーパーと同じように、生理用ナプキンが無料で受け取れるもので、日本でも導入に向けて準備が進められている。

オンラインのピル処方サービス

オンライン・ピル処方サービス「smaluna(スマルナ)」。全国各地の医療機関・病院で働く医師がオンラインで診察。365日いつでも無料で相談できる。一部をのぞき最短で翌日ポストに届く。

天然ゴムラテックス製コンドーム

日本ではじめて天然ゴムラテックス製のコンドームを製造した相模ゴムは1934年、当時は珍しかった女性創業者の松川サクさんが立ち上げた。不況、貧困のなか、何人もの子どもを抱え、避妊の方法も知らずに苦しんでいた多くの女性を救う存在に。

月経カップ

吸水ショーツに続き、リリースが増えている月経カップ。「murmo(マーモ)」の月経カップは、小さく折りたたみやすく着脱しやすいのが特徴。

モヤモヤや未来に向けた願い、心の声を書き出すエリアも

ワークショップコーナーには、「プレコンセプションケアが進みますように」「子どもの頃から性教育してほしい」「女性が自分らしく生きられる世界になってほしい」など、来場者の心の声が綴られていた。

「同じ方向を見る人たちとの共通言語がほしかった」 フェムテックの言葉を生んだイダ・ティンさんの想い

初日に開催された記者会見では、フェムテックの言葉を生み、投資を呼び込んで市場を促進させたキーマン、イダ・ティンさんをはじめ、海外のフェムテック起業家たちが登壇。ティンさんとフェルマータCEOの杉本亜美奈さんの基調講演では、フェムテックという言葉をつくった経緯やこれまでの苦労を振り返りながら、フェムテックに秘められた可能性について語りあった。

イダ・ティンさん(左)とフェルマータCEOの杉本亜美奈さん

杉本亜美奈(以下、杉本)みなさんこんにちは。私がCEOを務めるフェルマータは、2019年に創業、今年で5期目に突入しました。起業前はアカデミアの世界で公衆衛生学の学者をしており、医療物資や医療サービスを必要なときに、必要な人へを届けるということを研究してきました。その後、シンクタンクへの参画を経て、投資業界で働いていたときにフェムテックと出会い、「この市場を日本でも広げたい!」と奔走してきました。

これからより日本・アジアで市場を拡大していくために、消費者や企業だけでなく、医療、アカデミア、行政、政治、メディアなどをつなげて、日本だけではなく世界の起業家とともに、私たちが渦のような存在となりたいと思っています。

イダ・ティン(以下、イダ):フェムテックという言葉をつくるきっかけとなったのは、サンフランシスコで行われたあるテックカンファレンスでした。女性の健康課題をテーマとするプロダクトやサービスの起業家たちと会話していた際、女性だけでなく、兄弟や家族、近所の人などのなかにいる、同じ方向を向いている人たちとの共通言語がほしいと感じて。みんなで何か大きなことに取り組んでいるという認識を持ってもらいたかった。そこでフェムテックという言葉をつくりました。

杉本:私とフェムテックとの出合いは2018年。イギリスでの博士課程を経て帰国後、アカデミアの世界から抜け出してスタートアップの投資会社に転身した頃。投資案件としてやってきたのがアメリカのスタートアップがつくっている、自宅で女性ホルモンを測れるキットでした。瞬時に「これほしい!」と私は思ったのですが、投資業界は男性比率が高いこともあり直感的にニーズが理解されにくく、残念ながらその案件はスルーされたんです。

なぜ? その体験がすごく衝撃でした。ユーザーとしてほしい人がここにいるのに、届かない。そんな現状を課題に感じ、フェムテック市場創出の道を歩みはじめることになりました。

──興味深いお話ですね。フェムテックという言葉が生まれて8年ほど経ちますが、市場の変化をどんな風に感じていますか?

イダ:投資検討の場において、フェムテックという言葉が「こういった素晴らしい企業がありますよ」と伝えるための橋渡し的な存在となっていることがうれしいです。

杉本:2019年の9月に日本で最初の「Femtech Fes!」を開催したとき、来場者の中にメディアやビジネス業界の方々がたくさんいらっしゃって、後日、色んなメディアやブログなどでイベントのことを書いてくださったんですね。それから次第に消費者が、そして企業が動きはじめて。

当時、市場拡大のハードルとなる法律や規制の見直しをお願いしに、バッグいっぱいにプロダクトを詰め込んで厚生労働省を訪れたことがありました。そのとき、「市場ができてから来てください」と言われたんです。政治家や行政が動くためにも、まずは向かうべき方向を民間側で示してくださいね、ということだったのだと思います。それから4年が経ち、ようやく日本にも市場ができはじめ、進むべき方向も見えてきたのではないでしょうか。

──フェムテック事業をはじめたとき、課題に感じていたことは何でしょう?

イダ:資金調達が難しかったですね。ただ、確実にニーズはありますので、根気強くニーズや意義を説明することが必要です。

杉本:フェルマータを立ち上げて最初の2〜3年は、月経カップや吸水ショーツなどの商品を持って、まずは見て触れてもらうために、とにかくいろんなところに駆け回りました。あるときは議員さんを前に「このナプキンがショーツになるんです。どう思いますか?」と聞いてみたり。そういう細かい感覚のようなものを繰り返し伝えながら、いまに至ります。

イダ:ステークホルダーに提案する際、私はいつも包摂的な言葉をつかうようにしてきました。そして私がいかに真剣に取り組んでいるのか、これまでの経験とともに熱意を語り、伝えます。生理痛が重い、妊娠しづらいなど、テクノロジーの力でサポートできることを伝え続け、少しずつですがようやくわかってもらえるようになってきたと思います。

──フェムテックに投資するべき理由は何だと思われますか。

杉本:がん、認知症、糖尿病など、目に見えてわかりやすいヘルスケア領域はニーズが大きい傾向にあります。一方でフェムテックは、まだまだ課題が言語化されていない領域でわかりづらい。だからこそ大きな可能性を秘めていますし、社会全体にもたらすプラスの効果は計り知れません。フェムテックに関する潜在ニーズは、性別に関わらずすべての人にあります。そして女性の健康まわりのニーズを掘り起こすサイクルは、いろんな分野にも応用できます。

イダ:女性たちの声が反映されるようになれば、より健全な社会がつくれると思います 。テクノロジーの力をつかうことで私たちは強くなる。そして痛みや苦しみなどの 声をまわりに伝えられるようになり、インクルーシブな社会がつくれます。

──フェムテックを一過性のものにせず、持続可能にしていくには?

杉本:フェムテックという言葉をつかって一般の方向けにイベントを開催しているのは、おそらく日本だけかと。以前、全国放送の朝のニュースで女性アナウンサーが女性用バイブレーターを紹介していたことがありましたが、日本は意外と性へのタブーが少ないのかもしれませんね。フェムテックを流行で終わらせないためにも、日本のカルチャーや土壌を客観的に把握することは重要だと思っています。

イダ:フェムテックという言葉をつくってから、市場は急速に拡大し続けています。大手プレーヤーも参加するようになりましたし、IPO(新規公開株式)する企業も出てきています。これまで、健康課題に対する適切なソリューションが少なかった女性たちにとっては、苛立ちや怒りがあったと思います。

今後は、女性たちにはより自身の経験を重要視してもらいたいし、社会にも深刻に受け止めてもらいたいですね。フェムテックは小さな商品、市場に見えるかもしれませんが、性別に関わらず社会全体のヘルスケアに対する意識をガラリと変えるような、奇跡を起こすエネルギーを秘めている。そう感じています。

撮影/国井美奈子 構成・文/大森奈奈

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