Do well by doing good. いいことをして世界と社会をよくしていこう

三越の“あの柄”を超えろ─自分たちだけの包装紙をつくるワークショップ
三越の“あの柄”を超えろ─自分たちだけの包装紙をつくるワークショップ
COLUMN

三越の“あの柄”を超えろ─自分たちだけの包装紙をつくるワークショップ

大切な贈り物を包装紙に包むことで想いとともに届けるという精神は、日本の文化のひとつです。老舗百貨店の三越は、包装紙をテーマにした教育プログラムを日本各地で開催。参加した子どもたちは、どんな学びを得ているのでしょう? ワークショップのようすをリポートします(後編)。

――前編はこちらーー

子どもたちのクリエイティビティが炸裂した、オリジナルの包装紙

創業350周年の記念事業として、地域社会と連携した日本文化振興のための取り組み「みんなでつくる華ひらく 共創包装紙教育プログラム」を実施している百貨店の三越。三越の包装紙「華ひらく」をテーマに、日本各地でワークショップをおこなっている。

第1回目に実施されたワークショップには、中央区立京橋築地小学校の5年生37名が参加。包装紙についての授業のあとは、いよいよ自然の形をモチーフにした作品づくりに挑戦する。講師を務めるのは、「華ひらく」をはじめとした三越の用度品のデザインなどに長く携わり、グッドデザイン賞審査員なども務めるグラフィックデザイナーの岡本健さんだ。

「自分が好きな形は何だろう、どんなものが美しいと感じるのか。モチーフは大きな1つでもいいし、小さな何個かでもOKです。自由に切ってください。全員が切り終わったら、白い台紙に相談しながら決めて貼り、新しいデザインの包装紙をつくっていきましょう。頭の中でイメージしたモチーフを、下書きせずにハサミで切ってみてください」(岡本さん)

この台紙に切り貼りして、オリジナル包装紙を作成していく

三越の包装紙は戦前から戦後にかけてパリやニューヨーク、東京などで活躍した画家・猪熊弦一郎氏の作品が使用されている。

「猪熊弦一郎さんは、不思議な絵を描く人。きれいに描こうとか、うまく描こうというよりも、自分が面白いな、楽しいなという気持ちをそのまま形にしているように感じます。みなさんもきれいにできたかどうかなどは気にしないで、『この形は面白いな』と思えたら、それが大正解だと思います」(岡本さん)

児童たちは一斉にハサミを動かし、「自分が面白いと思う自然の造形美」を試行錯誤しながら切っていく。やがて台紙の上には、子どもたちによって生み出された、葉っぱや花、蝶々や海藻、星、宝石、なんだかわからないものなど、さまざまなモチーフが次々と貼られていった。立体感を出すために切り目を入れる、細かく切って重ねて貼り付けるなど、それぞれが創意工夫を凝らしている。イメージしていたものと少し違ってしまっていても、それも味わいの一つになるのだろう。

「自分でつくることも大切ですが、他の人がつくったものを見ることも大事です」(岡本さん)

できあがったらグループごとに前に出て、自分のモチーフについて、工夫した点を発表することに。中には「あまり難しく考えずに、前に見たことがあるものを思い出しながら切りました」などと言う児童も。

それぞれのグループの発表が終わるたびに、周りの児童たちから拍手が起こっていた

「いろいろと考えながらつくることも大事だけど、自分の気持ちのまま、なんとなく切ってみるのもすごく大切です。皆さんの手によって、想像以上に素敵で面白い包装紙ができましたね」(岡本さん)

今日組んだ、それぞれのグループだからこそできた、世界にひとつだけの包装紙。子どもたちの創造力と発想力から生まれた、多様な感性が形になっている。

この授業は、2・3時間目の「総合的な学習の時間」が充てられていたが、かなり盛り上がって授業時間いっぱいになっていた。そこでクラス担任の幸地裕助先生が児童たちに、「4時間目は社会の授業だけどどうする?」と呼びかけた。すると「このまま続けたい!」という声が児童たちから口々に上がり、筆者も思わず笑ってしまった。結局、社会の授業は短縮して行うことになった。

助け合い、協働する大切さも学べるのも、このワークショップの魅力のひとつ

このオリジナルの包装紙はすぐさまスキャンしたあとに印刷され、子どもたちの手元へ。用意された小さな箱を三越のスタッフのサポートのもと、実際に包んでみる体験を行う。デモンストレーションを見せてくれた三越のスタッフたちのようには包めずに四苦八苦したものの、ワイワイと周りと協働しながら楽しそうに包んでいた。

記念写真を撮影して、この日のプログラムは終了。子どもたちは事後学習として、感想文をまとめたそうだ。

日本各地へ、さらに世界に広がるオリジナル包装紙

クラス担任の幸地裕助先生は、ワークショップのようすを楽しそうに見守っていた。

「自由に創作してほしかったので、今回はあえて細かな事前学習は行いませんでした。実際に授業が始まると子どもたちから作るうれしさが伝わってきましたね。たくさんのアイディアを表現していて素晴らしいと思いましたし、私たちもワクワクしました。これからもさまざまな経験を通じて感性を伸ばしていきたいと考えています」(幸地先生)

クラス担任の幸地先生も、とても楽しそう

このオリジナル包装紙は、実際の「華ひらく」と同じ紙に同じインクで印刷され、タッグを組んだ三越の各店舗で秋ごろから使われる予定だ。三越伊勢丹のメタバース空間である「REV WORLDS」の中で作られる美術館で、10月24日(火)から掲示される計画もあるという。

福岡の三越では、この日本各地の子どもたちが創造力を働かせたオリジナルの包装紙データをウインドウにインスタレーションするなど、各地の三越による趣向が凝らされながら展示される。

包装のプロフェッショナルである百貨店スタッフに指導されながら、ボックスの包装に挑戦!

日本の包装文化は世界からの評価を得る一方で、特に百貨店などの包装は「過剰包装である」と槍玉に上げられがちだ。三越では1990年代から環境配慮を考え、製紙会社と研究を重ねて、古紙配合した用紙が利用されている。2000年代には、新聞紙などで使われる針葉樹材と雑誌等で使用する広葉樹材を中心とした古紙を40%配合するまでにいたっている。さらに2010年代以降は、一般的な植物油や再生植物油を使用したベジタブルインクを開発することで、よりサステナブルな包装紙を実現した。

自然を自らの感覚で捉えることの大切さ、考えたり感じたりしながら、実行してみることの大事さを知るこの授業。子どもたちの自由に飛べる創造力の羽を養う、いい機会になっているようだ。

――前編はこちらーー

text&photo:市村幸妙

Official SNS

芸能人のインタビューや、
サステナブルなトレンド、プレゼント告知など、
世界と社会をよくするきっかけになる
最新情報を発信中!