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海はなぜ「すべての生命の母」であるのか?
海はなぜ「すべての生命の母」であるのか?
COLUMN

海はなぜ「すべての生命の母」であるのか?

地球や生命にとって、海とはどういうものか。なぜ、汚してはいけないのか。まずは地球規模での水の循環の存在を知って、私たちが日々の何げない暮らしのなかで、海に与えている影響を考えてみましょう。「SUSPORT」代表の堀口瑞穂さんに伺いました。

生命の根源は海にあり、
その危機もまた海にある。

海の水が蒸発し、陸地に雨となって降り、川や地下水となってまた海へ流れ込む。この一連の循環に、飲み水や生活排水、その他汚染も関連している

地球をリンゴにたとえれば、海水はそのヘタほどの体積しかありません。しかしそれが、地球表面の7割を覆っています。私たちが利用できる淡水の量に比べて、膨大です。

地球は約46億歳。その誕生後、海の形成がはじまり、約38億年前には、最初の生命が海で生まれたといわれています。人の生涯ではとうてい感じられない時間感覚のなかで、プレートと呼ばれる地球を覆う岩盤が活発に動いて、いまの地形となったのです。海水の動きもダイナミックで、おなじみの黒潮や親潮といった表面に見える海流もありますが、表層の水が冷やされて深いところに沈みこんだり、それがゆっくりと湧き上がったり、塩分による密度差も関係した3次元的な、地球規模の循環があります。この大循環は約1000年かけて行われるといわれていますが、地球と海の歴史を考えれば、それは短いひとコマなのかもしれません。

その海に、私たちの命は大きく依存しています。海中の植物プランクトンや海藻は、光合成により生物の呼吸に必要な酸素を供給しますが、その量は大気中の酸素の50%とも、85%とも考えられています。上空では酸素からオゾンが生まれ、オゾン層となって生物を紫外線の脅威から守ってくれています。海の状態は天候にも大きく影響します。エルニーニョ現象とか、ラニーニャ現象という言葉を聞いたことがあるもしれません。太平洋の南米沖合の海面水温が平年より高くなったり、低くなったりする現象が1年程度起こることで、世界の天候に異常が起こるというものです。海は大気の1000倍もの熱容量を持っていて、海水温の変化が及ぼす大気への影響は絶大です。ここ数年の気候の変動、台風の異常な動きや水害の頻発なども、海の状態と無関係ではありません。酸素、天候だけ見ても、私たちが生きていくうえで海がどれほど大きな存在かがわかると思います。しかしその海がいま、さまざまなリスクにさらされています。

大気中の二酸化炭素の増加やマイクロプラスチックの問題などは、基本的に人間の生活が引き起こしているものです。海を直接汚染しなくても、川を汚せば、その汚染物質がやがて海に流れていきます。たとえば私たちがふだん使っている化粧品にそういった成分が含まれていれば、川や地下水、ひいては海を汚染することになるのです。その影響はすぐには表れないので、少しくらい大丈夫と思うかもしれません。しかし、毎日つかい続けていたら、いったいどれだけの量になるでしょうか。もしそれが、海を漂う植物プランクトンの挙動に影響を及ぼしたら、世界はどうなるか想像できますか。酸素濃度が低くなり、相対的に二酸化炭素の濃度が高まれば、本当に息苦しい、生き苦しい世界に変わってしまうでしょう。また、それが小さな生物に取り込まれ、それを上位の生物が捕食し……という具合に、食物連鎖の上位にいる生物に汚染物質が濃縮していく問題もあります。つまり、人間の行為は、人間に還ってくるのです。還ってくる相手は、自分かもしれませんし、太平洋の反対側の人たちかもしれません。

我々は海から多くの恵みを受けて生活していますが、それはもっと根本的な、人間の、生物の生存環境そのものだということがわかるでしょう。海という漢字のなかに「母」が含まれているように、海はすべての母ともいえます。実は、海水の主要成分のうち、上位4つは羊水と同じです。海からの生物の進化は、子どもが羊水のなかで育まれ、生まれ出るのに等しいというつながりにも驚かされます。海の問題は出産に似て、あと回しにすることが許されない、いますぐ解決に向けて行動しなくてはならない問題なのです。

PROFILE

堀口瑞穂
人々がより安心できる暮らしを実現する企業〈SUSPORT〉代表で、セーフティナビゲーター。企業、行政、学校などとともに、環境での安全性向上を支援する活動を積極的に行う。

●情報は、FRaU SDGs MOOK OCEAN発売時点のものです(2019年10月)。
Illustration:Tokuhiro Kanoh Edit:Asuka Ochi

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