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ヒトが生んだ「マイクロプラスチック」が、ヒトの体に還るまで
ヒトが生んだ「マイクロプラスチック」が、ヒトの体に還るまで
COLUMN

ヒトが生んだ「マイクロプラスチック」が、ヒトの体に還るまで

プラスチックごみに吸着する化学物質が食物連鎖に取り込まれるとどうなるのか。生態系に与える影響や人体への被害について、公衆衛生の専門家、イレイン・M・ファウストマン博士に伺いました。

人体への影響は未知数な
マイクロプラスチック問題

世界中で深刻な問題になっている海洋汚染。私たちの日常生活から出たごみが大量に海に流出し、ごみから排出される有害物質を含めて、環境汚染の勢いはとどまるところを知らない。人間が汚染した海の被害はやがて、人間に還るものだともいわれている。ワシントン大学シアトル校・公衆衛生学部の教授で、有害な環境化学物質が人体に与える健康被害を研究しているイレイン・M・ファウストマン博士はこう話す。

「近年、海洋環境の保全は人類共通の重要なテーマですが、なかでも大きな問題のひとつが現代のライフスタイルに欠かせないプラスチック製品です。最近、世界は『使い捨てプラスチックをやめよう』という傾向に動いていますが、いったいそのプラスチックが、どのように問題となっているのか、どんな被害につながっているのか、実感していない人がほとんどではないでしょうか。魚を通して、私たちの食卓にも紛れこむ可能生はますます高くなるでしょう」

現在の状況を劇的に変化させなければ、2050年には海に流れ込むプラスチックごみは魚の量を超えるといわれている。ファウストマン博士は、同大学の小児保健センターで18年以上にわたり指導を行い、母子の健康を守っている公衆衛生の研究者。同時に、毒物学者でもある彼女は、環境要因がどのように人間に影響を与えるのか、また母親と子どもたちを有害な環境化学物質や環境条件からどうやって守れるかについても、日々研究をしているという。

「世界中で話題になっている海洋漂着物の規模と影響が世界的に認識されるようになったのは、近年になってからのこと。この問題をいち早く認識したのが日本財団でした。問題解明の研究をするための資金助成によって、私たち研究者は、海洋や公衆衛生の様々な面にどのような影響を与える可能性があるか研究を続けています。そのなかで発見したことのひとつは、魚類と海洋哺乳類にかなりの悪影響を及ぼしていることです。紫外線や波の影響で劣化していったプラスチックのうち、5㎜以下のサイズになったものをマイクロプラスチックと呼びますが、微細なプラスチックごみに吸着する化学物質が食物連鎖に取り込まれ、生態系に及ぼす影響が懸念されています。何より心配なのは、食品を介しての間接的な影響。マイクロプラスチックを体内に取りこんだ魚を私たちが食べることで人体にどのような害があるのか、健康と社会への影響の大きさについて、まだ十分な結果が出ていないのが現状です」

さらに、その化学物質は分解されないか、非常にゆっくりと有害性の低い化学物質に分解されるかして、何十年もとどまるのだという。

「化学物質の多くは体内に蓄積する可能性があり、研究ではガンの発生、および免疫の変化を引き起こす可能性があることが示されています。たとえば、パーフルオロ化合物(PFCs・過フッ素化合物)は半永久的に体内に残留するといわれる恐ろしい化学物質で、テフロン製調理器具などに使用されており、WHO(世界保健機関)は、使用前に避けられる化学物質と発表しています。WHOは、そのような化学物質を特定し、使用と生産を中止することについての世界協定を結んでいますが、残念ながら、いまだマイクロプラスチックに含まれる残留性有機汚染物質(POPs=Persistent Organic Pollutants)の認識が十分ではありません。POPsは、難分解性及び生物蓄積性を有し、環境汚染を引き起こすおそれがある物質として、いったん排出されると私たちの体に有害な影響を及ぼす可能性がある、大変危険な物質としても知られています」

人体への影響は未知数だが、私たちが日常生活で実践すべきはどのようなことだろうか。

「プラスチックが海洋堆積物に及ぼす甚大な影響が明確になったいま、その解決法を社会全体でもっと活発に議論しなくてはなりません。これは、国や自治体、企業、研究機関、市民の全員が参加しなければならない深刻な問題であるということを認識すべきです。海洋漂着物の場合、より大きな行動が必要となりますし、研究結果を待ってからと悠長なことは言っていられません。私たちひとり一人が意識的に行動し、賢く消費する方法を考え、自分たちの廃棄物が最終的にどこへたどりつくのかについて、いま一度真摯に考える責任があります。何よりも、自分の身に降りかかる可能性があると知ることが、プラスチック使用と消費に関する問題に向き合うきっかけになります。興味をもたない人々に意識の向上を促し、大変な問題だと認識させるのです。私自身は職業柄もあって、海に対する思いは強いほうですが、それも家族や大切な人の未来を思えばなおのことで、そういった思いこそがアクションにつながるのではないかと思います。サステナブルなライフスタイルに責任をもち、その代弁者になることを、ぜひ実践してください」

マイクロプラスチックが人体に及ぼす影響はまだ研究段階ではあるが、甚大な被害につながる可能性も大いに秘めているという。海洋汚染問題を自分ごととし、理解し、行動することが解決への近道なのだ。

PROFILE

イレイン・M・ファウストマン博士
ワシントン大学シアトル校公衆衛生大学院リスク分析・リスクコミュニケーション研究所教授兼所長。研究の専門は発生・生殖・神経毒性物質の分子機構の解明、毒性評価のためのインビトロ技術の特性解析、生物学に基づく用量反応モデルの開発。現在、日本財団と世界中の研究機関が進めている、世界的な海洋ごみの研究プログラムに参画している。

●情報は、FRaU SDGs MOOK OCEAN発売時点のものです(2019年10月)。
Illustration:Tokuhiro Kanoh Text:Akiko Fujino Edit:Chizuru Atsuta

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