闘う環境活動家=グレタ・トゥーンべリの「新しさ」と「信念」【後編】
グレタ・トゥーンべリ。世界で最も有名な環境活動家です。グレタについての本を執筆したジャーナリストのアンダース・ヘルベーリさんから、強さと繊細さを秘めた彼女の素顔を聞きました。
世間の批判は気にしない
大切なのは気候変動の問題
グレタさんの登場は世界中にインパクトを与えた。ある日突然現れた15歳の少女が、「人類は絶滅の危機にある」と訴え、リーダーシップを発揮していく姿は、ジャンヌ・ダルクの再来かと世間を沸かせた。ストライキ後にはじめた気候変動対策を求めるデモ「Fridays For Future(未来のための金曜日、以下FFF、毎週金曜日に開催)」は、またたく間に各地に飛び火し、国を越え、若者たちが声を上げはじめた。グレタさんが国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)やダボス会議、国連気候行動サミットなど、世界の主要な会議やイベントに登壇し、カリスマ的な存在となっていく一方で、各国のリーダーや大物政治家との応酬がメディアで取り沙汰され、何ごとにも動じない彼女の強気な姿勢を快く思わない大人たちも多数出てきた。
「グレタに聞いたことがあります。『あんな意地悪なこと言われたりして大丈夫?』って。そしたら彼女は、『私はアスペルガーだから、自分に関係のないことは、ぜんぜん響かない』と。いちばん大切なことは気候変動の問題であって、自分自身が悪く言われることは気にならないそうなんです」
グレタさんは、2011年に学校の授業で環境問題に関する映画を見て、ショックのあまり摂食障害になり、後にアスペルガー症候群と診断された。アスペルガー症候群の人々は、社会的なコミュニケーションや他者とのやりとりがうまくできなかったり、興味や活動が偏ったりする特徴を持ち、こだわりの強さ、感覚の過敏さなどをもつといわれる。実際、グレタさんは叩かれることで傷つくことは少なく、それよりも、気候変動への警告を無視する大人たちが多いことに愕然としている。問題解決に対しての行動に時間がかかりすぎるし、各国の目標やゴール設定は低いまま。世界中で取り決めたことも、各国がそれぞれの言い訳をしながらなので遅々として前に進まない。そんな国々のリーダーや政治家たちのに、グレタさんは大いに不満を抱いているのだ。
世界に希望の光をつなぐ、
Fridays For Futureが描く未来。
アンダースさん曰く、長年環境活動に携わってきたなかで、グレタさん率いるFFFについては希望を抱いているという。FFFは、ひとつの団体が主導する運動ではないからだ。
「FFFがほかの運動と大きく違うのは、若い人たち主導で運動が広がったこと。現在も国籍を越えて世界中の若者を中心に広がっていること。FFFは誰でも気軽に入れて誰でも参加できる。決まりごとは『科学者の話を聞く』『パリ協定を守る』。この2点を伝えていくだけ。あと『暴力を振るわない』『ごみを散らかさない』など、自分のできる範囲の責任でみんながやること。それがいままでとは違う、開かれた新しい面だと思います」
ひとりでストライキをはじめて3年。FFFは2000ヵ所以上で開催され、グレタさんはその広がり方に大きな手応えを感じているという。信じる力と強い意志で道を切り開いていく彼女の姿勢に、私たち大人が学ぶことは多いのではないだろうか。
Anders Hellberg
アンダース・ヘルベーリ
スウェーデンの環境団体、気候雑誌『Effekt』の編集長兼責任者を経て、環境ジャーナリストとして活動。現在は環境、気候、持続可能性の問題に取り組むニュースサイト「Bokdjuret」を手がける。右はグレタさんについて執筆した書籍のカバー(収益の半分はグレタ財団に寄付、日本語訳版も7月5日に発売された)で、写真はアンダースさんが撮影した。この写真はオフィシャルとして無料で世界のメディアに提供されている。bokdjuret.se
Greta Thunberg
グレタ・トゥーンベリ
2003年ストックホルム生まれ。2018年に学校ストライキを敢行。その後「Fridays For Future」のデモを開始。世界のリーダーや政治家たちの気候変動に対する対応が遅いことに不満を抱き、現在も精力的に活動を続ける。米『TIME』誌の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」に史上最年少で選出され表紙を飾る。2019年、2020年と2年連続でノーベル平和賞にノミネートされた。
●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Photo:Anders Hellberg Coordination:Akiko Frid Text & Edit:Chizuru Atsuta