地球のためにちゃんと知っておきたい「温室効果ガス」って何!?
世界各国が目標を掲げ、一気に加速化する脱炭素社会に向けた動き。そんないまだからこそ、環境問題をきちんと理解することが大切。地球で起こっていることと私たち人間の責任について、基本を学びます。温室効果ガスについて、国立環境研究所の江守正多さんに伺いました。
温暖化を進める温室効果ガスって?
地球の気温を上げているのは温室効果ガス。だが、ガスの種類や温室効果の仕組みを正しく理解しているだろうか?
大気の99%を占めるのは窒素と酸素。しかし、これらには地球を温める赤外線を吸収したり、反射したりする作用はない。地球を包む毛布のような役割を果たしているのは、水蒸気や二酸化炭素(CO₂)やメタンなどの温室効果ガス。大気に占める割合は微量だが、効果は絶大。もし温室効果ガスがなく、太陽の光だけならば、地球はマイナス19℃程度にしか温まらないのだ。
いま世界で問題になっているのは、この温室効果ガスが増えすぎて地球の気温が上昇しつづけていること。地球が海や森林に吸収しているCO₂は年間200億トン程度だが、2020年に人間活動によって排出されたCO₂は約400億トン。CO₂は自然界に吸収されなければいつまでも大気中に残り、地球を温めつづける。一刻も早い対策をと叫ばれているのは、そうした理由からなのだ。
近年は中国やインドなど、成長目覚ましいアジアの大国のCO₂排出量が問題視されているが、18世紀の産業革命以降のCO₂排出量を考えると、早くから工業化が進んでいたヨーロッパやアメリカ、日本といった先進国の責任は大きい。
知っておきたいKEYWORD
●温室効果のしくみ
太陽の熱だけでは地球の気温は-19℃程度までしか上がらない。大気中の温室効果ガスが地球を覆い、地表から宇宙へ出ていく赤外線を吸収・放出し、再び地表に届けることで、地球を温めている。問題は温室効果ガスが極端に増え、地球を温めるパワーが過剰になっていること。ちなみに、フロン類によるオゾン層破壊も温暖化に影響していると思われがちだが、オゾン層の破壊で増加するのは紫外線。紫外線は温暖化に直接影響しない。紫外線は皮膚ガンなどを引き起こすため、先進国では規制されているのだ。代替フロンは温室効果が高いため、自然冷媒への転換が進んでいる。
●温室効果ガスの種類
温室効果ガスとは、二酸化炭素や一酸化二窒素、メタン、フロン類など。水蒸気にも温室効果があるが、水蒸気は主に海水などが温められて大気中に発生するもので、人間活動が直接の起因ではないので、温暖化対策の対象とならない。地球を温めるパワーは物質で異なり、100年間の温室効果をCO₂と同じ重量あたりで比較すると、メタンは28倍、一酸化二窒素は265倍、フロン類は53~1万4800倍となる。大気中での寿命も異なり、たとえば海や森林に吸収されなかったCO₂はいつまでも残る。一酸化二窒素は約120年、メタンは約10年、フロン類は10~100年とされている。
●温室効果ガスの発生源
人間活動によって増加した温室効果ガスの影響のうち76%を占めるCO₂。そのほとんどが化石燃料を燃やすことで発生している。日本のCO₂排出量(2019年度)の内訳も40%がエネルギー産業だ。メタンは牛のゲップや排泄物、稲作、廃棄物の埋め立て等から発生。牛肉消費量の増加が問題視されているのはそれが理由で、世界の農林水産業から出るメタンは、世界のメタン排出量の40%近くを占める。ちなみに、過去20年間で世界のメタン排出量は30%近く増加している。フロン類の使用は身近なものではエアコンや冷蔵庫の冷媒など。使用時に漏れ出るほか、廃棄の仕方によっても漏洩する。
●人間活動によって増加した
温室効果ガスの影響に占める割合
フロン等(CO₂の12倍~2万2800倍の温室効果)…2%
一酸化二窒素(CO₂の265倍の温室効果)…6.2%
二酸化炭素(CO₂)…76%
メタン(CO₂の28倍の温室効果)…16%
●CO₂排出国ランキング
エネルギー起源のCO₂は、世界全体で1年間に335億トンも排出されている(2018年)。CO₂排出量の国別でのワースト1位は中国で、全体の1/4以上を占める28.4%。ワースト2位はアメリカの14.7%、ワースト3はインドで6.9%、ワースト4はロシア4.7%と続き、日本は3.2%と世界で5番目に多くCO₂を排出している。この順位はパリ協定が結ばれた2015年から変わっておらず、引き続きワースト上位国の責任が問われている。CO₂削減目標については、中国やインド、ロシアはさらなる経済成長を目指す権利を訴えており、中国とロシアの首脳は2021年に開催されたCOP26を欠席した。
●深刻化する南北問題
18世紀の産業革命以降、多くのCO₂を排出してきたのは先進国だ。CO₂の排出量は1950年以降急速に増えるが、その時期の排出量はOECD(経済協力開発機構)に加盟する北米や欧州、日本などが多い。にもかかわらず、温暖化による被害が深刻なのは主に途上国だ。干ばつによる水不足や食料危機はアフリカや南米、中東を。海面上昇による洪水や浸水はキリバスやモルディブなどの島国を脅かしている。一般に先進国が北半球、途上国が南半球に位置することから南北問題とされ、途上国からは「気候変動は地球全体の問題ではなく、先進国が取り組むべき課題」という声も上がっている。
●21世紀末までの気候予測
IPCCは、21世紀末までの気候予測を5つのシナリオで発表している。今後の人間の取り組みによって変わる温室効果ガスの大気中濃度と、それに伴う気温変化などをシミュレーションしたものだ。「SSP5-8.5」シナリオは気候政策がまったくない場合で、1850~1900年と比べて、21世紀末における世界平均気温は3.3~5.7℃上昇。最も積極的に気候政策が行われた場合の「SSP1-1.9」シナリオでも1.0~1.8℃上昇が予測される。COP26開幕前は、現状では2.4℃の上昇は避けられないとされていたが、会議で掲げた政策がすべて実行された場合、上昇は1.8℃に抑えられる可能性がある。
●世界のエネルギー起源のCO₂排出量(2018年)
WORST1:CHINA 95.3億トン
WORST2:U.S.A. 49.2億トン
WORST3:INDIA 23.1億トン
WORST4:RUSSIA 15.9億トン
WORST5:JAPAN 10.8億トン
PROFILE
江守正多 えもり・せいた
1970年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業。同大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。1997年より国立環境研究所に勤務。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。IPCC第5次、第6次評価報告書の主執筆者でもある。
●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
※出典:IPCC第5次評価報告書、IPCC第6次評価報告書、環境省『令和3年版環境白書』、資源エネルギー庁『エネルギー白書2020』、環境省『地球温暖化対策計画』令和3年10月22日閣議決定、JCCCA、気候変動監視レポート2020、温室効果ガスインベントリオフィス、2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)〈資源エネルギー庁〉、IEA Market Report Series – Renewables 2020(各国2019年時点の発電量)、IEAデータベース、総合エネルギー統計2019年度確報値
Illustration:Sara Kakizaki Graph:Kenji Oguro Text & Edit:Yuka Uchida
監修・江守正多(国立環境研究所)