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リサイクルする? 保管する?冬の終わりの、ダウンの話
リサイクルする? 保管する?冬の終わりの、ダウンの話
COLUMN

リサイクルする? 保管する?冬の終わりの、ダウンの話

今の暮らしを再考し、最高の日々をめざす「暮らしサイコウ」。今回は、来冬も、そして100年先まで使い続けたい、ダウンとリサイクルダウンについて。

今冬は都内も雪が多く、立春を過ぎてもダウンジャケットが手放せないでいる。寒さが厳しい時はやっぱり保温性の高いダウンに限ると、つくづく実感した冬だった。
ここ数年、プレミアム・ダウンと呼ばれる高級ダウンがブームだが、一方で、リサイクルダウンの人気も高まっている。
リサイクルダウンの需要が高まった背景には、限りある資源を大切に使って循環させようというサステナビリティの観点だけでなく、ダウンの供給量が不足しているという事情もある。しかも昔より圧倒的に質の良いダウンが少なくなっているというのだ。毛織物の世界で「昔の生地のほうが質が良かった」という声はよく聞くが、ダウンも似たような状況にあるのだろうか。そこで、ダウンの専門家にその辺りの事情を尋ねてみた。

「羽毛は食用の水鳥から、と殺時に回収される副産物です。食肉の世界は日本を含む一部のグルメな国以外は価格を最優先する市場となるため、味を考慮しない品種改良や飼育期間の短期化が進み、従来の飼育期間を約4分1にまで大幅に短縮してきました。その結果、過去には一般的であった良質な羽毛が、今では全流通量の10~15%にまで減ってしまっているのです」

お話をうかがったのは、国内唯一の羽毛の専業メーカーである河田フェザー株式会社 代表取締役社長の河田敏勝さん。良質な羽毛を自社単独で確保するだけでなく、過去に日本市場に流入した良質な羽毛をリサイクル羽毛(グリーンダウン)として100年以上循環し使い続けるため、ダウンリサイクルの事業にも取り組んでいる、リサイクルダウン界のトップメーカーでもある。以前、当メディアでもダウンリサイクルをおこなっている「グリーンダウンプロジェクト」を紹介したが、河田フェザー株式会社はプロジェクトのパートナー企業だ。

●サステnavi

ダウンジャケットも羽毛布団も。使い古した羽毛製品を回収、再生、循環させる「Green Down Project」

河田フェザーのダウンは新羽毛・リサイクルダウンともに品質に定評があり、寝具やアパレル製品などのオリジナル商品を製造するほか、たくさんのブランドに良質なダウンやリサイクルダウンを供給している。アウトドアブランドのTHE NORTH FACEやGoldwin、ファッションブランドのnano・universeといった名だたるブランドの製品にも河田フェザーのリサイクルダウンが使用されており、今や「河田フェザー」の名は品質の証のように認識されている。

創業130年を迎えた国内唯一の羽毛素材メーカーである河田フェザーが誇る高品質ダウンを使用したダウンショール。大判ながら、軽い側生地と高品質羽毛によってストレスなくコーディネートできる。普段使いにはもちろん、旅のおともにも最適。ダウンと生地カラーが選択できるセミオーダー製品。KWD(ケーダブルディー)ダウンショール/15,400円(税込、送料込)

●公式サイト

河田フェザーが誇る高品質ダウンを使用したベビーダウンケープ。赤ちゃんにも安心して使用できるよう、中に入れる羽毛には、新毛よりも綺麗なグリーンダウンを採用。体温の高い赤ちゃんのためと衛生面を考慮したファスナーで開閉するベンチレーション※がついている。ダウンと生地カラーが選択できるセミオーダー製品。※ベンチレーションは主にマウンテンパーカーやアウトドア系のナイロンパーカーなどで着用時の蒸れを軽減したり内部の温度を調整したりするためにデザインされた機で、ファスナーの開閉で外気を取り入れます。
KWD(ケーダブルディー)ダウンケープ/18,700円(税込、送料込)

●公式サイト

リサイクルダウンの浸透はここ数年で一気に起こったように感じていたが、実は古くから身近なところで使われており、我々のほとんどがきっと一度はリサイクルダウンの快適さを経験しているという。

「40年以上も前からホテル・旅館などの業務用羽毛ふとんは約5年ごとに循環されており、大部分の羽毛ふとんにリサイクルダウンが使用されています。ですから多くの方が、リサイクルダウンを一度は使用したことがあると思います。羽毛ふとんの場合、使用年数が増えると生地が擦れたり、羽毛がへたったりしやすくなるので、約5年ごとに循環させるケースが多いのですが、アパレル製品の場合は別です。例えば、数千円で販売されているダウンジャケットはたった1年でリサイクルとして回収されるケースも多くみられます。一方で、数万円以上のダウンジャケットですと5年以上愛用されているケースもよくうかがいます」

全国から河田フェザーにリサイクルダウンの原料となるダウンが集まってくる。羽毛の洗浄には美しい超軟水と乾いた気候が欠かせない。工場のある三重県多気郡明和町は、乾燥して湿度の低い気候と、超軟水の美しい水が豊富な土地で、羽毛の精製に最適なのだという。故郷の三重にこのような素晴らしい企業があることを知って嬉しい限りだ。

原料は除塵された後、洗濯・回復加工・脱水を経て高圧乾燥機にかけられ、冷却除塵した後、選別機にかけられ、空気を使って舞い上がらせることで軽いダウンと重いフェザーに分け、かつ品質の安定化もおこなわれる。

それを聞いて、以前から抱いていた疑問を河田さんにぶつけてみた。プレミアム・ダウンと呼ばれる高級ダウンを使った製品は、保温性の高さだけでなく、標準的なダウンより羽毛に汚れが少なく、ふわふわとした質感が保たれやすいイメージがある。実際はどうなのだろう?

「高級ダウンは羽毛の段階から、そうでないダウンより洗浄がしっかりされ、汚れ(アカやホコリ)が少なかったり、混ぜ物が入っていないため、キレイでふわふわであったりすることが一般的です。ただアパレル製品・寝具ともに一部で品質偽装などがおこなわれている場合もあり、全ての商品が100%そうだと言い切れないのが、難しいところです」

手縫いされたふとんにリサイクルダウンが充填され、検針を経てたたまれ、出荷される。回収時とはまるで違う、ふかふかに膨らんだ美しい形が印象的だ。

新品のダウンでもリサイクルダウンでも、品質を長く良く保つ一番の秘訣は、湿気に注意することだという。他にもダウン製品を扱う上での注意点をいくつかご教示いただいた。
「アパレル製品の場合、日々のお手入れとして、保管時はハンガーに吊るしてしっかりと羽毛を乾燥させてほしいですね。これは春先の収納時も同じです。しっかりと乾かした後に収納すると羽毛は長持ちします。湿気があると羽毛が折れ曲がり、羽毛のふわふわ感が失われてしまいます。一方、乾燥させるとキレイに羽毛が開いた状態で保管ができ、羽毛のふわふわ感が維持されやすくなります」
クリーニングに関しては、基本的に製品表示に沿って対応すればよく、ドライクリーニングでももちろん問題ないという。
「使用年数が増えても、正しくお手入れをすれば衛生的に悪くなることもありません。また、小さな羽根や未熟な羽毛がダウンジャケットの生地から突き出た場合は、引き抜かないでください。引き抜くとその穴が大きくなり、さらに突き出しやすくなります。突き出た羽根の先端だけをはさみで切り、突き出た反対側の面から指で引っ張り戻すのが長持ちのコツです」

リサイクルダウンで気になる点がもしあるとすれば、衛生面だ。河田フェザーは高い技術で羽毛を徹底的に洗浄し、羽毛が本来持っていた高い品質と、清潔でふわふわとしたやわらかい手触りを蘇らせたグリーンダウンと呼ばれるリサイクルダウンを製造しているが、世の中にはさまざまなリサイクルダウンが流通している。見分けるポイントはあるのだろうか。
「適切にリサイクルされたダウンは非常に清潔で臭うことはありません。もし臭いがするなど違和感がある商品は、生活臭やアカ・ホコリがしっかりと取り除かれていない可能性が高いので、購入を避けた方がいいでしょう」

洗浄前の原料の顕微鏡写真。表面にアカのようなものが付着している。
洗浄後の精毛の顕微鏡写真。小羽枝が開き、細部までキレイになっている。

河田フェザーの羽毛が高品質なのは、長年培ってきた経験と知識、洗浄技術によるもの。まさに世界トップレベルの技術を誇る。羽毛の特徴を理解し、他では真似のできない除塵力と洗浄力を発揮している。

河田さんによると良質なダウンは非常に丈夫で、適切に加工すれば繰り返し使用できるという。しかも初めに書いたように、昔のダウンの方がクオリティが高い可能性もある。着なくなったからといって、簡単に捨ててはいけないのだ。実は処分に困って放置してある古いダウンジャケットがあるのだが、羽毛としての力がなくなっていると思い込み、近々ゴミとして捨ててしまおうと考えていた。とんでもない間違いだった。

「消費者の皆さんには、できれば羽毛製品は捨てず、ぜひグリーンダウンプロジェクトなどの回収に出してほしいですね。そして、リサイクルダウンを購入される際には、ぜひニオイや肌触りを感じてみてください。きっと、リサイクル羽毛のふわふわ感や使い心地を気に入っていただけると思います」

知っているようで知らなかった、ダウンのあれこれ。もうすぐやって来る衣替えの際には河田さんのアドバイスを守って収納しよう。そして、うっかり捨てようとしていた古いダウンジャケットは、早速リサイクルに持っていこう。まだまだ使える、そして多分良質なダウンがいっぱい詰まっているのに、何年も活躍の場を奪って閉じ込めていたとは、なんだかダウンに申し訳ない気持ちだ。キレイに洗浄され、新しく生まれ変わって、また誰かのお気に入りになるといいな。

【取材協力】

河田フェザー株式会社

●公式サイト
●Instagram

水谷美紀

エッセイコンテスト入賞を機にファッションの世界からライターへ。現在はおもに広告・PR業に編集も。小さめの映画と街歩きが好き。牛肉・はまぐり・鋳物で知られる三重県桑名市出身。

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