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いま、なぜ養殖魚に「ASC認証」が必要なのか!?
いま、なぜ養殖魚に「ASC認証」が必要なのか!?
COLUMN

いま、なぜ養殖魚に「ASC認証」が必要なのか!?

食べることは、生きる基本。だから、子どもは食育を通して、食にまつわる正しい知識を身につけ、生きる力を育みます。でも、大人はどうでしょう? 食を取り巻く状況は目まぐるしく変わっています。深刻化している貧困問題や、社会全体での取り組みが叫ばれている食品ロス問題。漁業も、農業も、大きな転換期にあります。

未来の食を考えるには、現状を知ることが大切。今回は、大きな危機に直面している日本の海と魚を守る実例を紹介します。

海と産業を守る
持続可能な養殖

大漁旗を掲げた進水式。鈴木さんの祖父が創業したマルキンは1977年、国産の銀鮭では初めて事業レベルでの養殖に成功。養殖から加工・販売を一貫して手がけてきた

魚の価値を見直すことで適切な水産資源の管理をしていこうという世界の流れ。残念ながら日本は大きく遅れをとっているが、魚の流通を担う事業者のなかには、新しいアクションを起こしている人もいる。宮城県・女川町で銀鮭を養殖する「マルキン」の常務取締役・鈴木真悟さんは、持続可能な養殖水産物を認証する国際認証ASCの取得を通して、新しい養殖魚の価値を発信している。

銀鮭は寒冷地域を好み、日本近海にはほとんど生息しない。養殖が可能なのは三陸の冷たい海のおかげだ

ASC認証とは、自然環境と社会・労働問題に配慮した養殖を認証する国際的な制度で、オランダに本部を置く水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)が管理する基準に基づき、第三者の認証機関が各養殖業を認証するもの。現在、二枚貝やエビ、サケなど12の魚種(品目)に対して管理を行っている。2021年9月現在、世界で3万2000品以上、日本では328のASC認証商品がある。

山の淡水で育った稚魚を海の生簀で肥育。春~夏に水揚げする

「認証のチェック項目は多岐にわたります。養殖場周辺の海棲哺乳類の移動ルートや、海の底に生息する生物への影響などの調査、養殖場の水温や水中の酸素量を常にモニタリングできる機器を導入したり、生態系の保護や環境への配慮に加え、養殖場の管理運営における社会的責任を果たすことが求められます。また養殖のエサもASCの基準を満たしたものしかつかえません。エサとなる小魚が絶滅危惧種ではないことや、魚種や漁獲地域などのトレーサビリティが明確であることなど、さまざまな要件を満たす必要があるんです」

生簀(いけす)から海へ逃げた個体が周辺域の魚と交配しないように配慮するなど、設備面でも改善を行ってきた

鈴木さんは2017年から認証取得の準備を開始。約3年間、関連企業やNGOなどと協力して各種調査や定期的なモニタリングを通して事業内容を見直し、2020年6月、養殖銀鮭では国内初となるASC認証を取得した。多大な労力とコストをかけてまで国際認証を取得しようと思ったのには理由がある。

「ウチのような小規模事業者は、どうしても大手との価格競争に勝てません。ならば海外マーケットで勝負できないかと、東南アジアに市場調査に出かけたんです。そこで目にしたのは、ノルウェーはじめ、欧米諸国の養殖サーモンのシェアの高さ。しかもほとんどが国際認証商品。それが当たり前という状況でした。日本では水産物生産における国際認証の前例はほとんどなかったのでギャップに驚いたと同時に、国際認証商品が新しい価値になるのではと思ったんです」

飼料は加工履歴が追えるもの。魚粉にビール酵母やハーブを加え、銀鮭の味を引き出す工夫をしてきた

もうひとつは、日々海と向き合うなかで感じていた、海の異変だった。

「ここ数年、地域の漁師の多くが『魚が獲れない、減っている』ということを肌で感じています。ただ、個人レベルで具体的なアクションを起こすまでに至らないのが現状ですし、国も本腰を入れる気配はない。このままでは漁師や養殖業者は職を失い、消費者も安定した水産物の供給を得られなくなります。そうならないためにいま、行動を起こすべきだと思ったんです」

適度に脂ののったブランド銀鮭「銀王」。品質と供給面で安定感があるのが養殖の強み。「養殖だけに頼るのではなく、天然資源とバランスをとって補い合える関係が理想」と鈴木さん

ただ、ASC認証のマークをつけて製品を販売するには認証料が必要なうえ、生産面でも多くのコストがかかる。鈴木さんらが手がける認証つきブランド銀鮭「銀王」も、価格を2割上げないと採算が合わないのが現状だ。

「大手の量販店では値上げ率は5〜10%が限度。最近は認証制度に賛同し、適正価格で買い取ってくれる小売店も出てきたので、あとは、消費者がそれを選んでくれる土壌をつくれるかが課題です。日本の海が直面している問題を知り、認証制度に価値を見出してほしい。そのためにも、私たち生産者や小売店が積極的に情報を発信していくことが重要です」

●情報は、『FRaU SDGs MOOK FOOD』発売時点のものです(2021年10月)。
Photo:Keisuke Hirai FISHERMAN JAPAN Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子

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